生産・物流

デファクトスタンダード

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デファクトスタンダードとは、市場での競争を通じて支配的な地位を築き、結果として「事実上」の業界標準となっている標準のことです。
一般的に新規に立ち上がった市場において、複数の有力な規格が乱立する状況はしばしば見られます。しかし、市場競争が繰り広げられる中で、一つの規格に基づいた製品が市場の大勢を占めるようになります。この結果、大勢を占めた規格は、公的な認証がないにもかかわらず、事実上、業界の標準として認められるようになり、このような規格を「デファクトスタンダード(de facto standard)」と呼びます。「de facto」とはラテン語で「事実上の」という意味です。
一方でISO(国際標準化機構)などの公的機関によって定められているものは「デジュールスタンダード(de jure standard)」と呼ばれます。例えば、「ネジの規格」は国際的に標準が決められています。

 

 

デジュールスタンダードとデファクトスタンダード

業界標準の中には公的機関によって定められているものもあり、上述した「ネジの規格」はISO(国際標準化機構)が定めたISO 68という標準規格によって定められていますし、「非常ドアのマーク」もISO 7010という標準規格によって定められています。
また、「電池の規格」はJIS(日本工業規格)で定められています。
このように標準化機関によって定められた標準規格のことを「デジュールスタンダード」と呼びます。

一方、デファクトスタンダードは、上記のデジュールスタンダードとは異なり、標準化機関の承認を必要としません。例えば、スマートフォンのOSの一つであるAndroidはWindows PhoneやBlackBerry OSなどとの競争の末、支配的な地位を築き、スマートフォンのデファクトスタンダードとなっています。
いったんデファクトスタンダードとなった製品は、顧客に対してロックイン効果をもたらします。つまり、顧客がデファクトスタンダード化したある製品を一度購入すると、その製品から他社製品への乗り換えが難しくなります。

 

 

デファクトスタンダードのメリット

安定した収益

自社、あるいは自社を含む企業の製品やサービスの規格が特定カテゴリーでのデファクトスタンダードとなった場合、競合が参入する余地がなくなるため、一応はその企業で価格などを自由にコントロールすることが可能になります。また、消費者は自社の製品・サービスを選択せざるを得なくなるために、企業は安定した収益を獲得することが可能となります。
よって自社製品のデファクトスタンダード化を狙う企業は少なくありません。一方でデファクトスタンダードは市場の独占につながる懸念もあるため、市場の動向には注意が必要です。

 

 

マーケティングコストの減少

自社、あるいは自社を含む企業の製品やサービスの規格などがデファクトスタンダードになるということは、つまり、ビジネス世界や社会でそれらが幅広く認知されたということになります。そのため、自社の製品やサービスに関するマーケティングの金銭的コストや工数が減少するため、企業はその他の製品・サービス開発に注力することが可能になります。特に、デファクトスタンダードになった一般消費者向けの製品やサービスには、ユーザー同士のクチコミなどによって認知が「自動的に」拡大されるという性質が生まれます。

 

 

特許やライセンス契約につながる

自社、あるいは自社も含む企業の製品やサービスがデファクトスタンダードとなった場合には、扱われている自社の技術を他社に開放することで、特許料やライセンス料、パテント料を獲得できる可能性が増えます。自社の技術がデファクトスタンダードとしての地位を確立し、市場の覇権を握るとパテント料が得られ、また、プライスリーダーにもなれるため、競合他社と争うことなく優位な立場でビジネスを展開できるというメリットがあります。

 

 

複数の企業と連携して技術開発を進められる

デファクトスタンダードの獲得のために複数の企業が連携する取り組みも見られますが、優れた商品ならば必ず市場で標準化されるとは限りません。ニーズが著しく多様化する現代では製造業者とメーカー、消費者を巻き込みながら、1つの商品がデファクトスタンダードへと成長していく傾向が目立っています。市場のスピードに追いつくため、複数の企業が提携して技術開発を進めることは珍しくないためその取り組みを進んで推進していくべきだといえます。

 

 

デファクトスタンダードのデメリット

同時に、自社の製品や規格、サービスがデファクトスタンダードを確立すると、さまざまなデメリットが生じます。

模倣品や互換製品への対処

まず初めに挙げられるデメリットとしては、デファクトスタンダードになった自社の商品やサービスの模倣品が作られ、特許権侵害などへの対応を迫られる可能性です。特に、国際的なデファクトスタンダードのケースでは、国によって法律や判断などが異なるため、対応も困難になるとみられます。デファクトスタンダードの黎明期は気を付けた方がいいでしょう。

 

 

独占禁止法に抵触する危険性

自社の製品や規格が特定のビジネス領域を「独占」している場合、最悪のケースでは、「独占禁止法」に抵触する可能性があり、また、一般消費者やマスコミからの批判を受けやすくなるといったデメリットも存在します。
いかに優れた商品やサービスでも、独占的な立場を得ると、他者排除など独占禁止法上の問題が生じたり、競合他社・消費者などから批判を受けやすい立場になったりする可能性があるため注意が必要です。

 

消費者にとってはデメリットになる可能性

新しい技術の黎明期には各社がデファクトスタンダードを目指し、競争を繰り広げますが、それが消費者にとってデメリットになってしまう場合もあり、例えば、デジタルカメラが市場に出た際の小型大容量メモリーカードなどが挙げられます。
当時はxDピクチャーカード、メモリースティック、コンパクトフラッシュ、SDメモリーカードなど、デジタルカメラのメーカーそれぞれが記録メディアを販売する傾向にあった結果、消費者は汎用性の低さから利便性を損なってしまったケースがあるのです。

 

自社の製品やサービスに生かせる部分がないかを検討する必要

大きな市場で優位な立場を確立し、大きな利益を見込めるデファクトスタンダードを狙うことはビジネスのアイデアを得るための大きなヒントになるため、企業は市場動向や他の企業のヒット商品、新しい技術には常に意識を向けておくことが必要不可欠となります。どんな企業でも、新商品やサービスを開発したり発売したりする際は、少なからずデファクトスタンダードになることを意識する必要があるといえます。
 

 

デファクトスタンダードの例

QWERTY配列

パソコンのキーボード配列であるQWERTY(クワーティ)配列はデファクトスタンダードの一例です。QWERTY配列はもともと、手動タイプライターの操作速度の標準化の目的として、頻出する文字列を左手小指に配置したことで誕生しました。タイプライターが衰退した現在もパソコンのキーボードの標準配列として存続しています。QWERTY配列は必ずしも技術的に他配列に対して優れていたわけではありません。手動タイプライターの使用者であった電報オペレーターの利用ニーズに適していたためDvorak配列も存在します。しかし、普及率ではQWERTY配列が圧倒的です。

 

 

Blue-ray Disc

Blue-ray Discは、高画質ハイビジョン番組を録画するために生まれた次世代DVDの規格です、この規格を巡っては、ソニーやパナソニックが提唱する「Blue-ray Disc」と東芝が提唱する「HD DVD」の2つの規格間で業界標準を争う競争が展開されましたが、東芝が2008年に「HD DVD」の販売を終了したことで、Blue-ray Discがデファクトスタンダードの地位を確立しました。
両陣営のディスクにはそれぞれに一長一短があり、決して、Blue-ray Discが圧倒的に優れていたわけではありませんでした。結果的にBlue-ray Discがデファクトスタンダード化した勝因の一つ「ソフトウェアやハードウェアの供給先の確保」であったとされています。
具体的に、Blue-ray Disc陣営は、アメリカのワーナー・ブラザーズやウォルマートといった大手コンテンツ制作企業や小売企業を自社陣営に引き込むことに成功し、最終的にはアメリカの大手映画制作企業6社のうち4社がBlue-ray Discを支持するに至りました。これによって、多くのソフトウェアの供給が可能となったBlue-ray Discが、市場での支配的な地位を固めました。
 

USB端子

USB-A端子はパソコンやノートブック、スマートフォンなどでデファクトスタンダードの地位を確立しましたが、近年ではUSB-C端子がデファクトスタンダードになりつつあり、装備されているモデルも続々と登場しています。パソコンやスマートフォンなどの進化がめまぐるしい現代、USB端子のデファクトスタンダードも刻一刻と変化していくかもしれません。
 

Windows OS

パソコンのOSで知らない人はいないとされる「Windows OS」はデファクトスタンダードの代表格として知られています。1985年に発売された当初においては、Windowsよりも1年早く登場していたMacのほうがクオリティが高いという評判でしたが、結果的には世界的なシェアにおいてWindowsのほうが優れているとみなされ大勢の人に使われたことでデファクトスタンダードとなりました。また近年のビジネスシーンに欠かせない文書作成の「Word」や表計算の「Excel」もデファクトスタンダードといるでしょう。
 

デファクトスタンダードを作るには・成立条件

デファクトスタンダードを狙う製品やサービスには、必要十分な技術力機能品質が備わっていることが前提条件となりますが、上記で見てきたように、技術力や機能品質が即座にデファクトスタンダードに繋がるわけではありません。
デファクトスタンダードの獲得にいたっては、ネットワーク外部性の原理を理解したうえで、製品やサービスの総ユーザー数の向上を目指すことが重要です。
QWERTY配列は、当時の主な利用者であった電報オペレーターの利用ニーズに沿って設計、開発したものであり、利用者数の多さが利便性へと結びついていることから、「直接的ネットワーク外部性」の性質を生かしてデファクトスタンダードを獲得しているといえるでしょう。一方で、Blue-ray Discは、Blue-ray Discレコーダーの補完財であるソフトウェアの取り込みで価値を高めた点において、「間接的ネットワーク外部性」の性質を生かしたデファクトスタンダードの獲得例と言えるでしょう。
このように、技術的優位性の構築や特許戦略などよりもむしろお、ユーザー数を獲得するための顧客ニーズの理解や、関連事業者への働きかけなどが、デファクトスタンダードの作り方だと言えます。

 

 

その他の標準

コンセンサススタンダード

近年では、企業間で競争するのではなく、合意形成(コンセンサス)を行うことで形成される「コンセンサススタンダード」という考えにも注目が集まっています。例えば、コンセンサススタンダードにはEUにおける車載ソフトウェアの標準である「AUTOSAR」などがあります。
 

フォーラムスタンダード

フォーラムスタンダードとは、特定の技術に関心を寄せる企業などが集まって業界団体(フォーラム)を組織し、その技術についての標準仕様を策定・提唱したものを「フォーラムスタンダード」(forum standard)と言います。電気・電子分野における規格はIEEE規格、インターネット技術における規格にはIETFやW3Cの規格などがあり、IT分野では個別技術ごとに結成された企業連合による標準化活動も活発に行われています。

デファクトスタンダードは一社が使い始めた仕様がそのまま広まる場合もありますが、フォーラム標準は複数の企業や団体、当該分野に強い影響力を有する個人などが集まり、団体内での討議を経て仕様を発行するものです。

有名な例としてあ、光学ディスクのDVDやメモリーカードのSDメモリーカード、多言語の文字コード規格であるUnicodeなどが挙げられ、Unicodeとほぼ同様の仕様がISO/IEC 10646として正式に標準化されたように、IT業界ではフォーラム標準がデファクト化した後に公的な標準化団体によってデジュール化する事例がしばしばあります。

 

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