経営戦略

ロックイン

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ロックインとは、企業が既存顧客との長期的な関係を築くことを目的に、顧客を囲い込むための手法全般を指します。
経営用語で「ロックイン戦略」や、経済用語で「ロックイン効果」とも呼ばれており、例えば、消費者がどこかのメーカーの商品を購入した場合において、商品を買い換える時に同じメーカーの商品を購入するようになり顧客との関係が維持される効果をいいます。このようになる理由としては、買い換えるときのメーカーを変更した場合、そのときに必要となる費用(スイッチングコスト)が多くかかってしまうことが原因となり、消費者側としてはコスト削減のためにも同じメーカーの商品を買い続けてしまうという背景があります。
通常、新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持・拡大よりも多くかかる点や、また、顧客ライフサイクルの観点から見ても、既存顧客を自社へ囲い込むことは有効とされています。

 

 

ロックインを可能とする3つの要因

ロックインが可能となるのは顧客にとって以下の3つの要因のいずれか、または複数が働くためです。

スイッチングコスト

スイッチングコストとは、顧客が現在利用している製品から別の企業の製品に乗り換える際に負担する金銭的な負担・心理的な負担などのコストです。例えば、スマートフォンの機種変更を行う際に、購入代金のほかに、使用方法を一から学習する必要があるというような例です。
 

サンクコスト

サンクコストとは、すでに支払い済みのコストのことです。顧客からすると、過去に支払った費用や、製品の利用経験などを無駄にしたくないという意識が働き、特定の企業の製品の利用を続けることとなります。例えば、獲得した航空会社のマイレージを無駄にしたくないため、同じ航空会社のサービスを受け続ける人が多いのはこのような背景があります。
 

ネットワーク外部性

ネットワーク外部性とは、利用者の規模や利用頻度が、その製品やサービスの利用価値に影響を与えることを指します。
例えば、「なぜあなたはFacebookやTwitterを使用しているのですか?」と聞けば、「周りの人々が利用しているから」「利用しないと人と交流できないから」と答えるでしょう。このような場合においては、その製品やサービスの機能や品質によってではなく、利用者数や端末数などによって利用価値が決まっていると考えることができます。利用価値が高まる傾向にあるネットや通信サービスなどでは、多数のユーザーがいるサービスから、あえて他のサービスへと移行するインセンティブは少なくなります。
 

 

8種類のロックイン戦略

起業が展開する顧客ロックイン戦略は主に8種類に分かれます。いずれの手法も顧客のスイッチングコストやサンクコスト、あるいは製品・サービスが持つネットワーク外部性の存在を意識することで顧客を囲い込む手法です。

1.インティマシー・ロックイン

インティマシー・ロックインとは、起業や製品に対する人間的な親密さを訴えることで、関係性を構築して囲い込むことです。代表例としては、保険会社や自動車販売店の営業方法などが該当します。営業担当者が顧客と親密なやり取りを重ねることで、顧客は安心感を感じて、他社への切り替えを面倒に思うようになります。
 

2.メンバーシップ・ロックイン

メンバーシップ・ロックインとは、会員制やポイント制度などの仕組みを活用した関係性構築によって囲い込むロックインです。代表例としては、航空会社のマイレージや小売業のポイントカードなどで、スポーツクラブの会員制も「元を取りたい」という顧客のインセンティブにつながります。
 

3.コンビニエンス・ロックイン

コンビニエンス・ロックインとは、ワンストップでのサービス提供や、補充型のサービス提供によって、顧客の利便性を向上させて囲い込むロックインです。代表例としては、コンビニエンスストアや何でも揃うショッピングモールが該当します。
 

4.ブランド・ロックイン

ブランド・ロックインとは、商品のブランド力や知名度によって囲い込むロックインです。代表例としては高級車や衣服、宝飾品などの高級ブランドです。また、コーラと言えばコカ・コーラやポテトチップスと言えばカルビーといったようなブランド力の強い製品も該当します。
顧客が特定の購買行動を起こすときに、頭の中に思い出す製品の選択肢のことを「想起集合」といいます。カルビーやコカ・コーラのように想起集合の上位に位置する企業や商品は、顧客をロックインできている場合があります。
 

5.ラーニング・ロックイン

ラーニング・ロックインとは、製品・サービスの利用に関わる学習のコスト(金銭や手間)によって囲い込むロックインです。代表例としては、コンピューターのソフトウェアが挙げられます。顧客が一度特定のソフトウェアの操作方法を覚えると、他の類似ソフトウェアに切り替えることが面倒になります。
こういった顧客自身の学習の蓄積によってロックインされることもあれば、他社が蓄積する学習を頼ってロックインされることもあります。例えば、クライアントにとって頼りになる経営コンサルティングファームや、顧客の現場の課題を知り尽くして製品を提供してくる産業センサー大手のキーエンスの営業などが該当します。
 

6.コミュニティ・ロックイン

コミュニティ・ロックインとは、「他者が利用しているから自分も利用したい」というインセンティブを発生させて囲い込むロックインです。コミュニティ・ロックインはネットワーク外部性と大きく関わってきます。例えば、顧客がInstagramや特定のソーシャルゲームを利用し続けるのは「他者が利用しているから」という理由が大きいでしょう。
あるいは、他のビジネスパーソンが読んでいるからという理由で顧客に選択される日本経済新聞も良い例です。

 

 

7.シリーズ・ロックイン

シリーズ・ロックインとは、商品のラインナップを揃えることを魅力に思わせて囲い込むロックインです。代表例としては、様々なキャラクターやアイテムを揃えたくなるトレーディング・カードゲームやシリーズ物の小説などです。すべての顧客が完全にシリーズを収集するわけではありませんが、ラインナップを揃えようとする顧客は企業にロックインされることになります。
 

8.ベンダー・ロックイン

ベンダー・ロックインとは、コンピューターシステムなどを構築する際に、ある特定のベンダー(メーカー)の製品・システム・サービスに依存した構成にすることで、他社への乗り換えが困難にするロックインです。代表例としては、オペレーティングシステム並びにオフィスのスイート市場で圧倒的なシェアを持っているマイクロソフト社のMicrosoft WindowsやMicrosoft Officeが該当します。

 

 

 

ロックインの成立条件

顧客ロイヤルティが一定程度高まっていること

その企業に対して忠誠心や愛着感を感じていない状態でロックインを試みた場合、顧客に煩わしさを感じさせることになります。そのため、まず初めに一定程度の顧客の信頼感を得ていることが前提条件となります。
 

他社の製品と比べ機能・ブランドの面で魅力があること

いくら顧客にとって導入費用(スイッチングコスト)や既に支払った費用(サンクコスト)が高かったとしても、他社の類似製品の方が圧倒的に優位であれば、他社の類似製品に乗り換えられてしまうリスクがあります。そのため、提供している製品やサービスの質は一定以上の高さや、他社とは違った魅力を自社の製品やサービスが持っていることが必要です。
 

 

ロックインの落とし穴

ロックインの中には、製品そのものがロックインになるものもあれば(巨大ショッピングモールや配置薬など)、付随サービスを用いないとロックインに繋がらないものもあります(ポイントやマイレージなど)。
後者の場合は、実施には費用がかかり、また、類似製品が圧倒的に機能優位であったり、既存品にない利便性を持っていたり、あるいは顧客に飽きが生じたりすると、ロックインの効果が薄れていくこともあります。(新聞とネットニュース、シリーズものの本など)

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