経営戦略

リーンスタートアップ

リーンキャンバス

リーンスタートアップとは、起業や新規事業開発の成功率を高めるための方法論の一つです。具体例としては、コストを多くかけずに、すばやくビジネスの仮説検証を繰り返すことを重視し、顧客の反応を短期間で把握しながら、ビジネスアイデアや商品企画を何度も軌道修正することを指します。
起業に対する積極的な意識を持つアメリカにおいても、創業後のスタートアップ期を乗り越えて生き残ることができる企業は1,000社の内わずか3社しかないと言われています。
そのような背景のもと「いかにして新規事業の成功率を高めるか」という問題意識をもった起業家エリック・リース氏によって「リーンスタートアップ」は開発・提唱されました。
リーンスタートアップは「リーン(無駄のない)」と「スタートアップ」の2つの用語から成る造語です。通常、起業や企業内の新規事業の開発にあたっては、①企画・計画の立案、②製品開発、③マーケティング、④販売のように、製品の提供までに入念な準備や相当のコストを要します。それにもかかわらず、結果として提供された製品が顧客に受け入れられなければ、準備や製造にかかったコストは回収できません。
そこで、リーンスタートアップでは「低コストでの素早い仮説検証」に意識をむけます。

 

 

リーンスタートアップの提唱者

リーンスタートアップは、1979年生まれのアメリカの起業家エリック・リース氏が、紆余曲折の末にインターネットのコミュニケーションサイトの運営ベンチャーを起業した経験から提唱された概念です。
リーンスタートアップは、ビジネスシーンで大きな反響を起こし、今や世界中の企業や個人が実践している概念です。
また、エリック・リース氏は「スタートアップの教訓(Startup Lessons Learned)」というブログも運営しており、さまざまな大企業・ベンチャー事業に製品戦略のアドバイスを提供しています。

 

 

リーンスタートアップの鍵となる3つの用語

ピボット

時には、事業の初期アイデアや仮説、顧客像そのものが間違っていることもあります。リーンスタートアップではそのような場合に、ビジネスを方向転換することも抵抗しません。この方向転換は、バスケットボール選手の動作になぞらえ「ピボット」と呼ばれます。ピボットには、製品の機能の絞り込みや拡大、ことなる顧客ニーズへの対応、対象市場の変更、流通経路の変更などさまざまなパターンの方向転換があります。
仮説に大きなギャップが発生したり、MVPの受け入れ性が低い時に方向転換を行い、市場や顧客のニーズに合わせて軌道修正することで成功確率が高まります。

 

 

MVP

MVP(Minimum Viable Product)とは、直訳では「最小実行可能製品」となり、いわゆる試作品やプロトタイプの製品を指します。
スタートアップの企業は顧客の反応を見るためのツールとしてMVPを開発し、リーンスタートアップではこのMVPを最初に開発して、迅速な製品化を目指します。
リーンスタートアップでは、MVPをどれだけ精度よく開発できるかどうかが非常に重要になり、そのためには、ユーザーが求める本当の価値について確信できるほどの情報を、作成したMVPが得ているかどうかが成否を分けます。

 

 

アジャイル

アジャイル(Agile)とは、和訳では「素早い、機敏な」といった意味を表す形容詞であり、IT分野ではシステム開発を素早く機敏に実行していくために、小さな作業単位で実装とテストを実施することで、全体のシステム開発にかかる時間を短縮化する開発手法のことを指します。
この開発手法は「アジャイル開発」と呼ばれており、スピーディーに開発をすすめる手法として企業に浸透しています。リーンスタートアップでは、システム開発でこのアジャイル開発の手法をよく採用しており、リーンスタートアップで不可欠な、短い時間で効率的に製品を作成ためににはアジャイル開発が最適な手法のひとつとなります。

 

 

リーンスタートアップの成功条件

失敗を許容する風土を持っていること

リーンスタートアップは「小さな失敗を繰り返しながら、徐々に事業の完成度を高めていく方法」です。そのため、まずは組織として事業の失敗を許容する風土を保有している必要があります。個人で起業している場合においては、失敗をポジティブに捉えることができる経営者としての心構えも求められます。
 

MVPの作成やマーケティングリサーチのノウハウ

リーンスタートアップでは、MVPの作成と、顧客を対象とした仮説検証が必要です。「検証」に足るだけのMVPを作成できる技術力や、顧客調査やマーケティングリサーチのノウハウも必要となってきます。ただやみくもに試行錯誤を繰り返しても事業の成功率は高まりません。事業や技術に対する確かな知識を保有して、初めてリーンスタートアップは可能になります。

 

 

リーンスタートアップの4つのフェーズ

1.構築(Build)のフェーズ

まず初めに、事業のアイデアや仮説を立てて、想定される顧客像のニーズをあぶりだします。その際、コストができるだけかからない「実用最小限の製品」(MVP:Minimum Viable Product)、つまり簡易的な試作品のようなものを作成します。
 

2.計測(Measure)のフェーズ

次に、作成したMVPを少数の初期顧客(アーリーアダプター)へ提供して反応を探ります。顧客からの反応はポジティブなものだけでなく、改善要求があったり、すぐに飽きられてしまったりとネガティブなものもあると想定されます。リーンスタートアップではこの反応を注視します。
 

3.学習(Learn)のフェーズ

最後に顧客から得た反応を分析してMVPを修正していきます。
アーリーアダプターの反応から、最初に立てた仮説に誤りがあるという判断となった際は、仮説そのものを見直して、方向性を大きく変えましょう。思うような結果が出ない場合は、即座に製品やサービスの改良に取り組み、軌道修正して、事業内容を一新します。
もし、計測が失敗したとしても、学習を積むことで経験を次に活用できます。それこそが事業の成功率を向上させるカギとなります。
また、学習のメリットとしては、これ以上続けても成功しないと判断が下された場合、早期に撤退できる点が挙げられます。

 

 

4. 再構築(Rebuild)のフェーズ

上記の3つのフェーズのポイントは「できるだけコストや時間をかけずに、すばやく仮説検証を繰り返すこと」にあります。時には、事業の初期アイデアや仮説、顧客像そのものが間違っている場合もあります。リーンスタートアップではそのような場合に、ビジネスを方向転換することも厭いません。この方向転換は、バスケットボール選手の動作になぞらえ「ピボット」と呼ばれます。ピボットには、製品の機能の絞り込みや拡大、異なるニーズへの対応、対象市場の変更、流通経路の変更など様々なパターンがあります。
ベンチャーのみならず大企業の新規事業立ち上げにも、「構築→計測→学習」のサイクルは取り入れられており、良い組織の条件の一つに、常に新しいものを取り入れるというチャレンジ精神があるかないかが問われます。

 

 

顧客開発モデル

リーンスタートアップが持っている大きなリスクのひとつに、顧客ニーズに合わない製品やサービスを開発してしまうことがあります。
そのようなリスクを回避するためにリーンスタートアップのプロセスのなかで実施されるのが顧客開発モデルの4つのステップがあります。
顧客開発モデルのステップでは、製品やサービスの開発と並行しながら、顧客とビジネスモデルの発見や検証を実施していきます。

顧客発見

顧客発見では、ターゲットと仮説した顧客層が本当にリーンスタートアップの製品やサービスを必要としているかどうかを十分に検討し、ターゲットとした顧客層はどんな人物であるのかといった、いわゆる「ペルソナ」を発掘していきます。
リーンスタートアップのプロセスでは、おもに仮説構築の段階でペルソナの発見を行います。

 

顧客実証

顧客実証はリーンスタートアップのプロセスの中の「計測」の段階でおこなう行動であり、リーンスタートアップの製品やサービスが実際に顧客に購入されビジネスが成功するのかを実証していく試みです。

 

顧客開拓

顧客開拓では、顧客実証で確認できたリーンスタートアップの製品やサービスがビジネスとして成功するにはどのようなビジネスモデルを構築していくのかいいのかを検証していきます。
また、顧客へのアプローチの方法や営業プロセスを考え、どのような組織が必要で、どの部門に投資していくことが最適かを検証します。

 

組織構築

組織構築は、リーンスタートアップの最終段階で完成した製品やサービスを事業として運営するための組織を構築していくプロセスです。

 

 

リーンスタートアップ時に有用なフレームワーク

1. リーンキャンバス(Lean Canvas)

リーンキャンバス
それぞれの要素についての簡単な説明は以下のようなものです。

Problem: 抱えている問題を指します。
Customer Segment: どのような人がターゲットなのかを明確にします。
Unique Value Proposition: 競合に対してどのような独自性があるのかを明確にします。
Solution: 課題を解決する方法を指します。
Channel: 顧客に対してどのようにアプローチする方法を指します。
Revenue Streams: どのような収益モデルなのかを指します。
Cost Structure: どれだけのコストが発生するのかを指します。
Key Metrics: このビジネスモデルを評価する上で大切になる指標を指します。
Unfair Advantage: 競合に対しての参入障壁を指します。

事業を始める前には仮説を立てる必要があり、「ターゲットは誰か」「マーケットはどこか」「コストはどのくらいか」「利益はどれほどなのか」などを考える必要があります。そこで作成すべきなのがビジネスモデルであり、使うべきものがビジネスモデルキャンバスです。
リーンキャンバスとはいわば「ビジネスモデルキャンバスのスタートアップ版」であり、事業計画書のようなものです。9つの要素から自社のビジネスモデルを俯瞰的に分析することで「やるべきこと」が明確になるうえ、ステークホルダーにもわかりやすくなります。

 

 

2. MVPキャンバス (MVP Canvas)

仮説を検証せずに、多くのリソースを費やして商材をつくるのはリスクがあります。計画無しに製品をローンチしても顧客のニーズに合致していないがために、無駄なコストだけが掛かってしまう場合があるのです。
そのような問題を解消してくれるのがMVPです。MVPとは「Minimum Viable product」の略で「実用最小限の製品」のことを指します。MVPは「プロトタイプ」や「デモ動画」などが代表的で、いわばリーンキャンバスで立てた仮説を検証するためのツールです。そしてMVPを簡単に作成できるのがMVPキャンバスです。各項目を埋めるだけで、最適なMVPの形や学べることなどが検証されています。

 

MVPとは単なるデモ版・β版ではない

MVPとは製品のデザインや技術的なことを検証する為だけのプロトタイプやデモ版と似ていますが、詳細には違います。MVPとは、出来の悪いプロダクトをリリースするというものではありません。

 

MVPとは「学びのための道具」である

MVPの制作において大切なのは、仮説検証があって作られる「学びのための道具」であるということを忘れてはいけません。アプリケーションであれ、ビデオであれ、目的仮説の検証ができれば製品として形のあるものでなくても構いません。逆に言えば、かなり作り込まれたアプリケーションであっても、目的仮説が検証可能になるように制作されていなければ、それはMVPとしては質が高くないとも言えます。
 

リーンスタートアップのメリット

コストや時間をかけずに効果を計測できる

一般的に、完全な製品となるまで開発を続けると、非常に多くの時間やコストがかかります。そのため、MVPを作成する際は必要最低限が望ましいとされています。それにより、コストや時間をかけずに計測できます。
またMVPの提供を繰り返すことで、正確な顧客ニーズの素早い把握も可能となり、改善を繰り返すことで、より多くの顧客が満足する製品・サービスに練り上げていくこともできるというメリットがあります。
さまざまな機能を含めてのアプローチでは、時間的にも労力的にも限界が生じてしまい、また、顧客の反応が今ひとつだった場合、何が原因なのかが特定しづらくなってしまいます。
MVPは、顧客の反応による改善点を特定しやすいため、正規製品やサービスの提供を早めることが可能になります。

 

 

市場で優位に立てる

MVPを最低限に整え、いち早く計測することで、先行利益を獲得できるというメリットがあります。これにより市場で優位に立ちやすくなり、利益も出しやすくなります。
MVPのアプローチによって、比較的早めに製品やサービスを市場に出すことができるため、収益化の時期を早めることも可能です。
また、製品・サービスの改良に素早く対応できるため、市場の成長が早い業界で優位に立てるという点も魅力の一つです。
「試作品やサービスを改善して、再び顧客に提供する」というサイクルを繰り返すことで、起業や新規事業の成功率が飛躍的に高まります。
以上の効果から、後から市場に競合が参入しても、市場の認知度と開発スピードで差をつけることができるでしょう。

 

 

いち早く顧客の意見を得ることができる

リーンスタートアップに従えば、素早く市場に製品やサービスを提供できるため、最重要である顧客の具体的なフィードバックを早く得ることができます。これにより改善や伸ばすべき箇所も早く見つけることができます。
製品が完成したら市場に投入されますが、当該製品が市場に受け入れられるかどうかが課題となります。顧客が製品やサービスを気に入り、彼らのニーズを満たしているのかどうかが重要となるため、顧客からのフィードバックを取得することで、製品やサービスが改善され、より顧客が望む形で市場に投入できるようになります。
また、フィードバックによって顧客にとって本当に必要なものを提供できるようになるため、顧客満足度も向上し、自社の信頼度も高まるというアドバンテージもあります。

 

 

リーンスタートアップのデメリット

うまく働くとは限らない

リーンスタートアップやMVPは素早く市場で試すことができますが、下記のようにうまくいかない可能性もあります。
・多くの予算と時間を割いて市場に参入したものの、ユーザーに試作品が受け入れられない。
・軌道修正が難しい状態だとコストが多く必要となり、改善することができずに失敗してしまう。
上記以外にも、リーンスタートアップやMVPは計画性はありますが、先行きが見えない、不確定な要素が多いという懸念が生まれる場合もあり、軌道修正や顧客のフィードバックがうまくいかないと、ゴールを見失うこともあります。
 

試すうちに目的がずれる

リーンスタートアップを進めるうちに、何のために行っているのか目的が分からなくなってしまう危険性があります。「MVPを作成する」「MVPを試す」などを試行錯誤していくうちに、当初の目的やゴールが途中で変わってしまう可能性があります。
また、MVPを試していくうちに、当初の「顧客のニーズを満足させる」という目的から外れて、MVPを繰り返すことが目的となってしまう可能性もあります。
 

リーンスタートアップの勘違い

リーンスタートアップの考え方は、これから事業をはじめようと考えている起業家や新たな新規市場への参入を目論んでいる企業経営者にとって魅力的なプランですが、一方でリーンスタートアップに対してしばしば2つの勘違いが起こる場合もあります。

アイデアを考える手法、ではない

リーンスタートアップの最初のきっかけとなるのはイノベーションです。
リーンスタートアップで成功した巨大企業の多くは、今迄世界に存在していなかったアイデアをベースに事業を成功させていますが、リーンスタートアップを実行すればおのずとイノベーションのアイデアが浮かんでくるという勘違いが存在します。
リーンスタートアップはアイデアを事業化するためのスタートアップ論であり、製品やサービスの開発手法であって、アイデアを生み出す手段ではなく、すでにアイデアやイノベーションが存在する後で活用していく概念がリーンスタトアップです。

 

 

とりあえず作ってみよう、ではない

リーンスタートアップでは、MVPやアジャイル開発を活用して、スピード感を重視してとにかく早く製品を開発していくイメージがありがちです。また、リーンスタートアップでは、無計画でも「とりあえずやってみよう」という考え方であると理解してしまう勘違いがあります。
現代社会は不確実性も多いため、従来のように厳密に計画を立てながら下準備もしっかり行った上で事業をスタートしていては機会を失ってしまう可能性があるのは否定できませんが、リーンスタートアップでは、プロセスを踏んだ、無駄のない考え方をベースにした取り組みが重要です。
 

リーンスタートアップの例

トヨタ

リーンスタートアップの発想の元となったのがトヨタの「かんばん」方式と言われています。これは「必要なものを必要なときに必要な分だけつくる」というムダのない方式のことで、「ジャストインタイム制」とも呼ばれています。
「かんばん方式」とは、部品納入の時間、数量が書かれた作業指示書のことで、各部品箱に付けられている在庫をできるだけ持たないという仕組みであり、誕生は製造業でしが、現在はプロジェクト管理の手法としても活用されています。チーム全体の情報が把握しやすく、一元管理しやすいという点が特徴の一つです。
しかし、必要なときに必要な分だけ商品を納入する方式を導入したことで、交通混雑や環境破壊を引き起こす原因にもなっており、そういった背景から「多頻度小口配送を見直したほうがいい」という意見もあります。
また、大量生産に向いていないということから、大幅なコストカットが困難というデメリットもあります。

 

 

Instagram

写真共有アプリであるInstagramは、元々「Burbn」という名の位置情報を共有するSNSでした。しかし、そのアプリはユーザーからの反応があまり良くなかったため、ユーザー調査や試作品作りを通して仮説検証を繰り返し、「写真を共有する機能」がユーザーのニーズに対応することを発見します。
BurbnからピボットしてInstagramとして再リリースに至るまでの期間はわずか8週間程度であったとされています。リリース後もリーンスタートアップを意識することで継続的にアプリを発展させて、ハッシュタグやストーリーなどの人気機能の追加を行ってきました。

 

 

島根県

近年は企業だけでなく、公的機関や地方自治体もリーンスタートアップの方法論を活用して、産業振興を図ろうと動き始めています。例えば島根県では、2012年からリーンスタートアップの仕組みを取り入れた新事業創出の補助事業に取り組んでいます。最初に採択された「婚活応援システム『メイト』フランチャイズ事業」では、地元企業が有するサービスや技術を活用する新事業創出において、①MVPによる検証・評価、②サービス開発、③サービス提供、④改善の段階を踏んだフィードバックループを繰り返すことが意識されました。
島根県は現在でも県設立のしまねソフト研究開発センターと島根大学が提携することで事業創出を目指すプログラムに関わるなど、継続的な取り組みを行っています。
 

リーンスタートアップは時代遅れ?

2000年代、スタートアップやベンチャーが増えていくなかでリーンスタートアップは非常に人気が高まった手法ですが、一方で2020年現在「時代遅れなのではないか」ともいわれています。その理由についても解説をしていきます。

MVPでネガティブな情報がSNSですぐに広まってしまう

TwitterやInstagram、FacebookなどのSNSはリーンスタートアップが提唱されてからの10年で順調にユーザーを増やしていますそのような背景でSNSの投稿1つでサービスやプロダクトの評判が拡散し、あっという間に企業の価値が下がってしまうようになりました。
先述したように、リーンスタートアップでは、仮説検証するために短期間・低コストでMVPを作るのがポイントです。
従来なら仮説検証のため、一部の顧客に限定してMVPを出すということもできましたが、今はSNSで共有されることがあるためMVPを簡単に提供することはできません。中途半端な製品を出してしまうと、ネガティブな意見がSNSですぐに広まってしまういます。これがリーンスタートアップは今の時代にマッチしないと言われる理由のひとつです。
しかし、そもそもMVPは不完全な製品をとりあえず世の中に出すということではありません。あくまで必要最低限のものを設ける、という位置づけです。またDropboxのようにプロダクトそのものではなく、説明動画などで仮説検証をするパターンもあります。そのため一概にMVP自体が今の時代に合わないということにはなることはありません。ただMVPとして公開したものが、独り歩きしてしまう可能性があるため、SNSを意識したMVPの作り方や公開の仕方を考える必要はあります。
 

ピボットによって信頼が失われる

リーンスタートアップにとってピボットは必要なものであり、顧客の意見を取り入れながら持続的に製品をサービスを変化をしなければいけません。しかし、一方であまりに製品やサービスを変化させてしまうと、顧客から「基盤が定まっていない」「地に足がついていないサービス」という見方も出てきてしまう可能性があります。その結果、製品やサービスが信頼されなくなるという危険性があります。

 

 

「技術力」がイノベーションのカギになってきた

近年では技術力がイノベーションの鍵となってきており、あらゆる企業が開発コストさえ割けば技術力でイノベーションを起こせる時代となりました。しかしテクノロジーを取り入れるとコストがかかってしまうため、リーンスタートアップのように金銭的なコストを最小限にするのではなく、むしろスタート段階でお金を使って技術力を打ち出したほうがいいという意見があります。
モバイルアプリなどのプロダクトを開発する場合、もともとコストがかからないためリーンスタートアップに取り組みやすいのですが、一方、最新のテクノロジーを活用した開発はコストが必要になります。そのため、どんなにムダを省いてもそれなりにコストがかかるため、リーンスタートアップには向かないともいう意見もあります。
しかし、最新テクノロジーを駆使したスタートアップ企業が増えているのも事実であり、例えば電気自動車(EV)の分野はスタートアップの企業が多く現れており、EVは通常の自動車と比べて部品を約6割減らせるため、スタートアップ企業にもチャンスがあります。
実際にいくつかのEVスタートアップ企業が、バングラデシュやタイなど海外で新たなビジネスをスタートさせており、今後も幅広い分野でスタートアップ企業が増えるのに伴い、リーンスタートアップに取り組むケースも増えていくでしょう。
コストや時間をなるべくおさえ、効率的に起業したり新規事業を立ち上げたりするためのリーンスタートアップですが、YouTubeやInstagram、Dropboxといったサービスも、リーンスタートアップをうまく使ってビジネスを成長させたという実績があります。しかし、起業家であるエリック・リース氏がリーンスタートアップを提唱してから約10年が経ち、最近ではリーンスタートアップは時代遅れであるという意見もあります。
 

これからの時代のリーンスタートアップ

ポイントをおさえれていれば、リーンスタートアップは今でも十分価値のある手法です。今でも実際にリーンスタートアップを採用してイノベーションにつなげている企業は多く存在しており、事業開発や起業のほか、人事や組織改革など経営の課題解決に用いる場合も多々あります。
まず「リーンスタートアップが時代遅れ」という見方は、参入するビジネスがオープンに始めることができる事業なのか、クローズあるいは部分的に始めることができる事業なのかという視点の違いによって変わってきます。
リーンスタートアップは、向いている分野と「時代遅れ」になってしまった分野が、はっきりと別れているということになり、特に、消費者の中心的なニーズを見極めることがとても難しい昨今においては立ち上げながら、つまりサービスを顧客に提案しながら、ビジネスの「センターピン」を捉えていくことが必要になってきます。
コストをかけずにこの「センターピン」を探していく手法として、リーンスタートアップはとても有効的です。
また、決して「センターピンの模索」というリサーチだけではなく、アーリーアダプター(製品リリース初期から関心を持つ購入層)を取り込むことで、クラウドファンディングを活用することもできます。
もちろんリーンスタートアップを採用すれば、すべてうまいくいくというわけではないですが、あくまで手法のひとつして考え、状況に合わせてうまく応用していくことが重要です。

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