PEST分析とは、4つの要因から事業をとりまく外部のマクロ環境を分析するフレームワークです。(「ペスト分析」と呼びます。)
4つの要因とは、「政治(Politics)」、「経済(Economics)」、「社会(Society」、「技術(Technology)」のことです。
「政治」は各種政策や業界関連法規、規制緩和や強化、環境、外交などが該当します。「経済」は景気動向、物価変動、GDP成長率、金利、失業率、平均所得水準などが該当します。「社会」は、人口動態、環境、ライフスタイル・文化の変化、教育、犯罪、世論などが該当します。「技術」は、新技術の開発や新技術への投資動向などが該当します。
近年では、「社会」から自然やエネルギーなどの「環境」面であるE(Ecology)も加えて「PESTE」とすることもあります。
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PEST分析が必要な理由
なぜPEST分析が自社の戦略立案などに必要なのでしょうか?自社の事業の成功は、常に世の中の状態や変化、つまりマクロの環境によって影響されます。
つまりPEST分析の目的は中長期的なマクロ環境を分析して、その後のマーケティング戦略に活かしていくことです。
外部環境は細かく分けるとマクロ環境とミクロ環境の2つに分けられます。そのうちのマクロ環境、つまり自社でコントロールできない世の中の流れや業界動向を把握・分析することで環境の変化や事業活動に影響を与える要因を把握します。
PEST分析は、情報収集や情報の整理で終わる分析ではありません。様々な試行錯誤をして機会や課題の仮説を立てることが目的です。
PEST分析とは
政治(Politics)
「Politics」では、政治や法律、税制といった観点で企業に影響を与える要因を分析します。主な項目として以下の6つが挙げられます。
- 各種法律の改正
- 規制緩和や強化
- 外交
- 税制の改正
- 政権の動向
- 公的補助や助成
代表的な変化の1つとして、「増税」が挙げられます。日本では2019年10月に消費税率が8%から10%に上昇しました。それによって消費が停滞し売上が伸び悩んでいる企業も存在しています。
また、海外と締結する条約によっては、輸入できる商品に制限がかかるかもしれません。
公的補助や助成金の範囲が変われば、場合によっては国や地方自治体の補助を受けながら事業方針を転換できる場合もあります。
経済(Economics)
「Economics」では、経済動向の変化が企業に与える影響を分析します。主な分析する項目として次の6つが挙げられます。
- 景気動向
- 賃金
- 株価や為替、金利
- 物価変動
- 失業率
- GDP成長率
景気が悪化して賃金が少なくなった場合、消費が少なくなり今まで通りの売上を出せなくなる可能性があります。また、物価が高くなれば、仕入れ額が上昇して商品やサービスの価格改定を実行するはずです。自国の通貨の安くなるrと、輸入食材の仕入れ額が下がるので、外食産業や食料品店では商品やサービスの提供価格を抑えたり成長投資に資金を投入することもできます。
社会(Society)
「Social」では、消費者のライフスタイルに関する事項を分析します。分析する項目の例として、以下の8つが挙げられます。
- 人口
- ライフスタイルの変化
- 世帯数
- 社会インフラ
- 世論
- 犯罪
- 教育
- 宗教
社会的環境要因の中でも、例えば「日本の少子高齢化問題」は多くの日本企業に影響を与える要因となります。また、事業を展開するエリアによっては、世帯数や人口、流行や価値観といった要因によって、販売する商品やサービスの種類、販売方法を柔軟に変えることが重要です。
技術(Technology)
「Technology」では、新技術の開発や新技術の投資動向が企業に与える要因を分析します。例えば、以下のような項目が事項として挙げられます。
- AI
- スマート家電
- 5G
- 自動運転技術
近年、自動車業界では自動運転技術の開発競争が活発化しているため、自動運転の精度を高める技術の開発は不可欠となります。また、スマートフォンの普及や各種デバイスの進化によって、家電などの身近な「モノ」をインターネットに接続させることで、より便利で快適な暮らしが実現するでしょう。5Gの提供も開始しており、今後の通信サービスの状況は大きく変わるでしょう。
PEST分析の方法
次に具体的なPEST分析の方法について説明していきます。
PESTに振り分け
まず初めに、自社に関係しそうな情報項目を集め、「P・E・S・T」の各要素に分けて可視化します。新聞やニュース、業界紙や講演会などによって情報収集を実行するといいでしょう。
また前述したように、どの分類に属するのか迷うものもありますがPEST分析は正確にPESTに分類することが目的ではありません。自社に影響を与える重要な要因を認識することがPEST分析の目的です。
事実と解釈に振り分け
続いてPESTで分けた内容を「事実」と「解釈」に分けます。
「事実」とは実際に起きていることで、誰もが変えられない出来事のことです。
「解釈」とは個人的、恣意的な理解の仕方や理解内容のことのことです。
解釈に基づいた調査ではどんなに素晴らしい戦略を策定しても成功しません。誰から見ても「その通り」と納得できない情報は事実ではなく解釈になるので注意が必要です。PEST分析における調査結果は、明確に「事実」と「解釈」に分ける必要があります。
機会と脅威に振り分け
次に、分けた事実を「機会」と「脅威」に分けます。外部環境による影響は自社にとって大きな機会になると同時に脅威にもなる可能性があります。そのため次のステップではPESTに沿って集めた情報を機会と脅威に分けていく必要があります。
全ての戦略は「機会(チャンス)を手に入れる」もしくは「脅威を避ける」ために行われます。しかし機会が脅威に、脅威が機会になる可能性もあるため、振り分ける際は複数の視点を持つことが重要となります。
短期・長期の目線から振り分け
それぞれの機会と脅威を「近いうちに起こること(短期的)」なのか「将来的に起こること(長期的)」なのかに分けます。
同じ「機会」の中でもすぐに起こりそうなものと数年後に起こりそうなものを混在させた状態で論議を進めては、目標が共感されないまま時間が過ぎるばかりで会議の生産性が低下します。
議論が進んでいないと感じた時は、PEST変化の時間軸が統一できているか、メンバー全員の目標が共通しているかを改めて確認しましょう。
PEST分析を実施する際に押さえておくべきポイント
次にPEST分析を実施する際に押さえておくべきポイントについて説明します。
分析する目的を明確にする
すでに述べたように、PEST分析をする場面は「新たな事業に取り組むとき」「既存ビジネスを転換するとき」「社会のトレンドが変化するタイミング」など様々存在します。
これらのタイミングで必要な情報を集めて上手に分析するためには、PEST分析の目的を明確にする必要があります。
例えば、「コーヒーを提供する店舗を新たに展開しよう」と考えている場合、「コーヒーチェーン店に対抗できる施策を考える」といった目的だけでは適切な分析をすることが不可能です。もし「価格を抑えたコーヒーを提供する」という戦略を導き出すと、安価にコーヒーを販売しているコンビニやファストフード店と競合してしまいます。
「コーヒーを提供している店舗を把握して、自社にとって有利なポジションを見つける」という目標を設定すれば、より幅広い視野で外部環境を分析することが可能となります。「コンビニやファストフード店にはない独自ブレンドのラインナップを揃えて、コーヒーチェーン店よりも単価は高めに設定する」といった戦略を策定すると、独自の自社のポジションを確立できます。
脅威と機会を転換できるか考える
目的を持ってPEST分析をしても、分析結果を上手に活用できなければ成功できません。分析結果に基づいた戦略を立てるだけでなく、「脅威を機会に転換できないか」「機会は脅威になりうるか」を考慮することによって、より精度の高い戦略を導き出すことが可能です。
上述した、「コーヒーを提供する店舗の新規展開」を例にすると、他店で若年層の獲得に成功している場合、「シニア層に焦点を当てて商品をラインナップする」といった戦略を策定することができます。
また、「サブスクリプションを導入して、利用頻度によってはコンビニやファストフード店よりお得にコーヒーを飲めるようにする」といった戦略を策定することができれば、さらに多くの顧客を獲得できます。
環境の変化に敏感になる
PEST分析は外部環境の変化に応じて何度も実行することが重要です。
例えば、「新たな法律が制定された時」や「社会のトレンドが大きく変化した時」といったタイミングにPEST分析を実行します。これらの変化に敏感になっておけば、タイミングを逃すことなく事業の方向性を転換することができます。時代のトレンドに従って適切なマーケティング戦略を実践できれば、変化の激しい時代の中で長く生存していくことが可能です。
外部環境の変化だけでなくその後の影響も予測する
外部環境を考慮した戦略立案は事業を有利に展開するために重要なことなので、PEST分析を実行している企業は多く存在します。そのため、得られた分析結果に基づいてマーケティング戦略を立案しても、競合と似たような手法になる可能性もあります。
競合と差別化を図り上手に売上を伸ばすためには、外部環境の変化を分析するだけでなく、変化によって生じる「影響」を予測することが重要となります。
例えば、「若年層が自動車が乗らなくなっている」「クラウドサービスが普及している」といった分析結果から、「将来的に1つのアプリで経路検索や交通機関の予約・決済を完結するサービスが普及するだろう」といった想定をすることができます。
想定から将来を見据えたマーケティング戦略をおこなえば、他社よりも有利なポジションを獲得して売上を伸ばし続けることができます。
他のフレームワークとの連携
ファイブフォース分析
PEST分析が、マクロ環境を分析するフレームワークであるのに対して、反対にミクロ環境を分析するフレームワークがファイブフォース分析です。ファイブフォース分析では、以下の5つの要素(脅威)を分析することによって、外部環境が自社のビジネスにどのような影響を及ぼすのかを把握することができます。
・業界内の競合
業界内の競合他社は、自社のシェアを奪う存在です。競合他社が多いほど価格競争になり、利益が減少するリスクも高くなります。
・新規参入企業の脅威
業界に新しく参入してくる企業は脅威になります。参入障壁が低い業界ほど、新規参入者の脅威は大きくなります。
・代替品の脅威
カメラがスマートフォンに取って代わられたり、本が電子書籍に取って代わられたりするように、自社商品の代替品が現れると大きな脅威になります。
・売り手の交渉力
売り手の交渉力が強くなると高値で仕入れしなくてはいけなくなるため、利益が減少するリスクが高くなります。
・買い手の交渉力
買い手の交渉力が強くなると自社の商品を安値で販売しなくてはいけなくなるため、利益が減少するリスクが高くなります。
3C分析
3C分析とは「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の、3つの要因から分析し、成功要因や課題を見つけ出すフレームワークです。
自社の経営環境を分析して変化を把握しながら、戦略を考案したり経営上の課題を発見することに活用される方法です。3C分析では以下のことを明らかにする必要があります。
・市場や顧客のニーズと変化
・競合企業の対応内容
・上記2点を踏まえた上での自社が成功する要因
SWOT分析
SWOT分析とは、自社の環境を以下の4つの視点から分析する方法です。
- Strength:強み
- Weakness:弱み
- Opportunity:機会
- Threat:脅威
SWOT分析は、事業戦略方針の決定後に実行されるマーケティングプランの策定や組織目標の設定、社員個人の目標設定の際などに用いられる分析です。自社が抱える現状の問題点や将来にわたって起こる可能性のある状況など、漠然とした問題を整理することができます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、原材料の調達から顧客に商品やサービスが届くまでの企業活動の連鎖を「モノの連鎖(サプライチェーン)」と「価値の連鎖(バリューチェーン)」の2軸から行う分析方法です。
バリューチェーン分析の目標は、主に以下の2つとなります。
・コストを把握してコストを削減する
・自社の強みと弱みの双方を把握して差別化戦略に練りこむ
バリューチェーン分析を行うことによって、顧客にとっての付加価値の高い部分を「自社の強み」として判断できるようになります。
マーケティングミックス
マーケティングミックスとは、商品やサービスの販売効果を最大化するために具体的な実行戦略を策定するプロセスであり、通常他のフレームワークと組み合わせて行われるのが一般的になっています。
マーケティングミックスの中の「4P」は、次の4つの要素から構成されています。
- Product(製品)
- Price(価格)
- Place(流通)
- Promotion(販促)
マーケティングミックスでは4つの要素ごとに戦略を策定して、最適な組み合わせを考えて実行していきます。売り手目線の4P分析に加えて、買い手目線の「4C分析」の結果を組み合わせて分析することもしばしばあります。
PEST分析の注意点
PEST分析で重要なことは、情報を点としてみるのではなく、推移や変化を線として見ることです。
例えば新興国の場合、中間所得層がまだ多くない国であれば、短期的な市場としての魅力は低くなります。しかしGDPが成長しており、若年層人口が多く、今後も人口増加が大きく見込める国は、5年後・10年後の市場の魅力は大きいので、このようなポテンシャルを注目することも重要になります。
また、分析したものをリスクと捉えるだけでなく、導き出したリスクをどのように解決するのかという視点でも同時に考えることも必要です。
PEST分析の事例
PEST分析をより具体的にイメージするためには、PEST分析の事例を把握することが重要です。
次に業種別にPEST分析の事例を紹介します。
子ども向けのプログラミング教材の開発におけるPEST分析
子ども向けのプログラミング教材を開発する日本企業の場合は、以下のような分析をすることができます。
政治(Politics) |
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経済(Economy) |
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社会(Society) |
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技術(Technology) |
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以上の分析結果から、「幼少期からプログラミングを学ぶことによって、社会の変化に適応する能力や価値を創出する力を身につけられる。スムーズな就職につなげて高収入を目指せるため、子ども向けプログラミング教材の需要は高まるはずである」という分析ができます。
このような分析結果を活かして「プログラミング学習をしながらゲームの開発もできる教材」や「プログラミング学習を通して身近なモノを動かせるようになる」といった戦略に応用すれば、社会の動向や消費者のニーズに対応できるプロダクトを開発できるようになるはずです。
自動車業界におけるPEST分析
次に自動車業界におけるPEST分析の一例を紹介します。
政治(Politics) |
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経済(Economy) |
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社会(Society) |
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技術(Technology) |
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以上の分析結果から、「ガソリン車のシェアが縮小してこれからは自動運転機能を搭載した電気自動車が普及する。若者が車を所有しなくなっていることから新たな移動手段を確立する必要がある。また、カーシェアリングを導入することで、自動車を維持・管理するコストを抑える必要もある」といった分析ができます。
すでに電気自動車の開発競争が活発になっているため、「シェアリングサービスに力を入れる」「新たな移動サービスの開発に力を入れる」といった戦略が考えられます。
携帯電話業界におけるPEST分析
最後に日本の携帯電話業界におけるPEST分析の例を紹介します。
政治(Politics) |
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経済(Economy) |
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社会(Society) |
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技術(Technology) |
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日本の携帯電話業界では、利用料金値下げが求められていますが、「より高度な技術を搭載したデバイスを使って充実したコンテンツを楽しみたい」というニーズも増加しています。「複数人で円滑にプロジェクトを進められるツールの開発」「5G技術を活用したエンターテイメントの提供」など、スマートデバイスを使用するユーザーの多様なニーズにどのように対応するかについて考えることが重要となります。
PEST分析を作成できるテンプレートやフォーマット
最後にPEST分析を作成することができるテンプレートやフォーマットを紹介します。
Edraw
「Edraw PEST分析テンプレート」を使用すれば誰でも簡単にPEST分析図を作成することが可能です。お気に入りのテンプレートを選び、テキスト内容と画像を挿入するだけで、PEST分析図を作成することができます。
このテンプレートは自由にカスタマイズできるため、初心者でも本格的なPEST分析図を作ることができます。さらにテンプレートは、WordやExcel、PowerPoint形式に変換することも可能です。
スターフィールド
スターフィールドはEC、メディア事業を手掛けるスターフィールド社が提供している「Googleスプレッドシート」で利用できるテンプレートです。このテンプレートは非常にシンプルですが、ダウンロードするだけで誰でも簡単に共有、編集することが可能です。
PEST分析の4つの要素は、それぞれが独立せず相互に影響し合うため、常に認識を共有し戦略を考えることが重要です。
QUADERNO(クアデルノ)
日本の企業「富士通」が提供する電子ペーパー「クアデルノ」には無料でPEST分析のテンプレートが用意されています。このテンプレートは1ページで分析から結論までまとめられることが特徴です。
また、PEST分析用テンプレートだけでなく見本や解説も同梱されているため、誰でも気軽にマーケティング戦略を見直すことができます。
PowerPointによるテンプレート
PowerPoint形式によるテンプレートも販売されています。PowerPoint形式ではスタイルバージョンが異なる2パターンが提供されています。
このテンプレートでは政治、経済、社会、技術、といった企業の外部要因を一元管理しているため、効果的なマーケティング戦略の考案に活用することが可能です。
まとめ:PEST分析は新しい商品やサービス開発におすすめのフレームワーク
PEST分析は、シンプルに4つの外部環境を分類するだけではなく、「マクロ環境のトレンド変化を見極めて市場機会発見につなげる」「相関分析によって仮説を立てる」ことも重要になります。
この記事で紹介した分析例や企業事例を参考に、3C分析やKSFにつなげるための有効なPEST分析を行うことがおすすめです。
PEST分析は業界分析や戦略を考える際の重要なプロセスになります。
近年はコロナウイルスの流行も原因で、あらゆる外部環境の変化が激しくなっています。
今こそPEST分析を活用する時でしょう。