ファイブフォース分析とは、事業で高い収益を獲得するために、事業の新規参入、継続・撤退を判断するタイミングでその業界の収益性や競合状態を分析するためのフレームワークです。ファイブフォースでは、次の5つの要因が業界の競争状態を決めるとしています。その要因とは、「業界内の競合他社」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」「代替品の脅威」「新規参入の脅威」です。
「買い手」とはエンドユーザーや小売店などの販売業者のことで、「売り手」は原材料などの供給業者のことです。「代替品」とは、自社製品と同じニーズを満たす他の商品のことです。どの要因が業界に大きな影響を与えているのかは、業界によって異なります。重要な要因を発見することで、その業界の状況を正しく理解することができ、何をコントロールできれば競争を緩和できるのかや収益性を上げる方法を考えることができます。
目次
ファイブフォース分析の提唱者
ファイブフォース分析を考案したのは、ハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・ポーター氏です。
ポーターは「儲かるかどうかはどの産業・業界に参入するかで決まる。市場や競合を分析し、儲かりそうな業界を選ぶことが重要だ」という考えから、ファイブフォース分析を考案しました。
元々、経済学者であったポーターは、独占企業の収益性の高さに注目しました。経済学では自由競争が正義とされていますが、経営においては逆にいかに独占的なポジションを獲得できるかで収益性が高くなると考えました。
ファイブフォース分析の5つの脅威とは
では、ファイブフォース分析にはどのような要素が含まれているのでしょうか?ファイブフォース分析に含まれる要素は、次の5つです。
- 業界内の競合他社
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
以下では、これらの要素について詳しく説明します。
業界内の競合他社
「業界内の競合他社」では、競合他社をリストアップしてパワーバランスを比較しながら戦略を考案します。競合他社を分析する際にチェックするポイントは、以下のような項目があります。
例えば、「競合他社が品質のよいプリンターを安価に販売しているが、顧客数がそこまで多くない」という状況が把握できれば、「サブスクリプションサービスを導入して長期的なフォローアップを充実させることで顧客を囲い込む」のような戦略を考案することができます。
また、例えば「駅周辺や商業施設には飲食店が飽和状態となっている」ということが判明したら、「飲食店の出店が少ないエリアを選んで店舗を展開する」などの戦略を策定できます。
このように、競合他社とのパワーバランスや状況を比較しながら戦略を決めていくことが必要です。
買い手の交渉力
買い手とは、企業がターゲットとする顧客のことです。一般的な消費者だけでなく、取引先の企業が買い手になる場合もあります。
買い手の交渉力が強いと、以下のような状態になります。
・より価格を下げるよう要求される
・さらに高い品質を求められる
例えば、パソコンの購入を検討している顧客が「〇円割引してくれたら購入する」、「追加のソフトウェアをインストールしてくれたら購入する」などの要求をする場合があります。買い手の交渉力に劣っていると値引きやサービスをしなければならないので、企業が獲得する利益が減ってしまいます。
それに対して企業側は「値付けの妥当性を説明する」、「顧客を限定しない」といった対策を採用することで、買い手の交渉力に対抗しやすくなります。「商品の性能や相場に関してどれくらい知識を持っているか」のように、買い手が持つ情報量を把握しておくと、さらに有利に交渉を進めることが出来るはずです。
売り手の交渉力
ファイブフォース分析における売り手とは、仕入れ先の企業を指します。
売り手の交渉力が高い場合は原材料などの仕入れコストが高くなるため、企業に残る利益が少なくなります。また、仕入れ値が高くなると、商品やサービスの販売価格を高くしなければならない場合もあるため、企業によっては売上が伸びなくなる可能性もあります。
このような状況を回避するには、「より安価に仕入れできる取引先を選ぶ」、「仕入れの量を減らす」、「仕入れ先との契約を終了する」などの対策があります。もし適切な仕入れ先が発見できない場合、事業運営が困難になるはずです。売り手と有利に交渉を進めるには、「あらかじめ他の仕入れ先を見つけておく」といった準備が重要になります。
新規参入の脅威
新規参入の脅威とは、業界内に新たな企業が参入することで競争が激しくなる脅威です。例えば「ハンドメイド雑貨のオンラインショップを運営する」といった事業では、個人でも参入できることから「新規参入の脅威が高い」と判断できます。一方で、「クラウド型のビジネスツールを販売する」という事業では、ITに関する専門的なスキルが求められるため「新規参入の脅威が比較的低い」という判断ができます。
市場で長期的に利益を獲得し続けるためには、新規参入しにくい状況を作り上げることが重要となります。例えば、「企業のブランド力や認知度を高める」「他社が真似できない技術力を身につける」「市場のシェアを独占して価格競争できない状況にする」といった方法があります。
しかし、近年では「インターネットやIT技術の発展」、「市場の多様化」などにより、予測していなかった角度から競合が参入する可能性があります。例えば、国内企業に参入の余地がなくても海外企業が参入する場合や、他の事業をしていた企業が競合を買収して新たな市場を創造する可能性もあります。そのため、新規参入の脅威に備えるには、市場の変化を常に注視することが重要になります。
代替品の脅威
代替品の脅威とは、既存の商品やサービスが他の商品やサービスに代替されてしまう脅威です。代替品の脅威が強いほど、顧客が他の方法でニーズが満たされやすくなるため、売上や集客を維持することが困難になります。一方で、商品やサービスに独自性があれば代替品の脅威が弱くなり、長期的に購入してもらいやすくなります。
例えば、以前は「本を購入したい」というニーズを持った人は、書店に行って商品を探すことが主な方法でした。しかし近年では、インターネットを利用して本を自宅に届けてもらったり、オンラインで読書ができるようになりました。このように、顧客が「書店に行かずに本を手に入れる」という選択ができる状況になると、書店は新たな戦略を考案する必要があります。
時代の変化に対応して利益を得るためには、「購入前に本の内容を確認できる」「知人と貸し借りできる」のように、代替品にはないメリットを活かすことが重要になります。企業が持つ独自性を活かした戦略を考えれば、市場で利益を獲得し続けることが出来るはずです。
ファイブフォース分析をする目的
ファイブフォース分析を実行することによって、自社に対する脅威が何かを把握することができ、自社の優位性を発見することができます。また、現時点での課題や事業判断を行う助けにもなります。
同業種の競争の把握、自社の強みや課題を発見できる
ファイブフォース分析を行うことによって、同業種の競争力が把握でき、自社の強みや課題を発見することができます。自社の強みを把握することによって、現状ある脅威に対してどう対処すればよいか、何を改善していけばよいかまで理解でき、適切な施策を実行することが可能です。また、今後起こりうる脅威もあらかじめ把握しやすくなります。
新規参入や事業撤退の判断に役立つ
ファイブフォース分析を実行することによって業界の構造が把握できるため、その業界に新規参入するべきか、事業撤退するべきか判断しやすくなります。ファイブフォース分析を行うことによって、新規参入し、競合に負けないために何ができるか、コストはどのくらいかかるか、リスクの影響力はどの程度か把握することが可能になります。
これらの点から、利益をどのくらい出せるか、あるいは出すのが難しいかの目安を把握することができ、新規参入や撤退の判断をする上で、欠かせない情報を手に入れることができます。
予算配分の判断に役立つ
脅威が何かを分析することによって、予算をどの部分に費やすのかや、収益減少した場合にどう対処するのか判断しやすくなります。脅威への対抗策を具体的にして、どのくらいの予算が必要なのか把握できれば予算を管理しやすくなります。また、自社の収益が減少した場合でも対処しやすくなるはずです。
ファイブフォース分析のやり方と効果的に行う4つの手順
ファイブフォース分析を効果的にするには、以下4つの手順で分析を行うとより効果的です。
- PEST分析で業界の外部環境と市場を分析する
- 新規参入の障壁・代替品・競合他社から自社の収益を想定する
- クロスSWOT分析を併用してより詳細に分析を行う
- 自社が最も収益を上げやすい戦略と施策を考案する
4つの手順それぞれの具体的なやり方を解説します。
1.PEST分析で業界の外部環境と市場を分析する
まず初めに、PEST分析によって業界に影響する外部環境を分析します。
PEST分析とは、外部環境に影響する以下4つの要素をもとに、業界の情勢を把握する際に活用する分析方法です。
- Politics:政治
- Economy:経済
- Society:社会
- Technology:技術
外部環境や市場の動きは自社ではコントロールできないため、現状と今後の成長性を外部環境から認識しておくことで、新規参入の障壁や代替品、競合他社の動きを把握しやすくなります。
PEST分析とは
PEST分析とは、自社の経営戦略策定に生かすために、世の中全体の状況を分析する手法です。政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)という、4つの頭文字を並べて「PEST分析」と言います。
2.新規参入の障壁・代替品・競合他社から自社の収益を想定する
外部環境の分析をベースにして、新規参入の障壁・代替品・競合他社の現状と自社の収益性への影響も予測していきます。
例えば、自社がWebサイト制作会社であることを仮定して考えてみましょう。
国内の経済がデフレーションの状態かつ、競合他社には自社よりも優秀なエンジニアがいる場合だと、競合他社の脅威は大きいと判断ができます。
さらに、ネット集客の需要は今後も伸びることが想定されるため、新規参入の脅威も大きくなります。
現状のままだと、自社の収益性を上げていく際の脅威は大きいという結論に至ります。
自社の収益性を上げるためには、自社の内部環境も合わせて分析して、具体的な改善案や経営戦略を立案する必要があります。
3.クロスSWOT分析を併用してより詳細に分析を行う
外部環境や競合の脅威を考慮して、自社の内部環境を詳細に分析することで、新たなビジネスチャンスの創出や競合優位性を確保できる事業を見出すことも可能になります。
より詳細な分析を行う際のフレームワークとして最適なのが「クロスSWOT分析」という分析方法があります。
クロスSWOT分析を活用して、自社の強みと弱みに加え脅威と機会になる対象を掛け合わせ、具体的なアクションプランを策定していきます。
SWOT分析とは
SWOT分析とは、自社の内部環境の状況と、外部環境の変化を把握して、経営資源をどう活用するのかを判断する分析方法です。内部環境については競合他社と比べた強み(Strength)と弱み(Weakness)を分析します。外部環境の変化については、ビジネス拡大の機会(Opportunity)と脅威(Threat)を分析します。
4.自社が最も収益を上げやすい戦略と施策を考案する
例えば、先ほど例に出した「Web制作会社で収益を上げやすい戦略」について考えてみましょう。
競合他社よりも優れたエンジニアはいませんが、優秀なデザイナーはいるという強みがあったとします。
そして競合他社では、エンジニアによる制作を行うため、Webサイト制作費用が高く、納期も長期間である現状があります。
そこで、NoCodeツールを活用した短期納品・低単価を実現できれば、機会の創出が可能となります。
さらに優秀なデザイナーによる高いデザイン性も同時にリリースすることで、自社の強みを活かした収益性の高い戦略を策定することができます。
インターネットによる集客に悩む中小企業や個人店舗は、予算が限られている場合もあるため、買い手の交渉力による影響も小さく、競争優位性の確保も実現できます。
ファイブフォース分析を行うときの注意点
ファイブフォース分析を行う際の注意点として、以下3つをチェックしておく必要があります。
- 分析する業界を明確にしておく
- 客観的に分析を行う
- 参入障壁が高ければ撤退する選択肢も検討しておく
次に、それぞれの注意点を具体的に説明していきます。
分析する業界を明確にしておく
現在の業種業態は他分野からの参入も増えるため、どこまで分析するかの判断が難しくなっていきます。
そのため、分析する対象となる業界を明確にしておかなければ、分析結果も変わってきます。
また、IT分野などの業種が細分化されている場合も定義付けが困難になってきます。
まずは分析対象とする業界の定義付けを明確にすることによって、分析結果にズレがないようにする必要があります。
客観的に分析を行う
ファイブフォース分析は特定の業界を定めて調査・分析を行うため、客観的な分析が困難になりやすい分析方法です。
例えば買い手の交渉力を例にしてみます。
自社の顧客データが豊富な場合や、競合優位性を確保できていたりする状態である場合は、買い手の交渉力の影響を受けづらいため相対的な判断が難しくなる可能性もあります。
そのため、客観的な分析を行うためにも、可能な限り客観的なデータの収集を行ってから分析を実行する必要があります。
参入障壁が高ければ撤退する選択肢も検討しておく
新しい市場への新規参入を考えている場合であれば、参入障壁の高さによって撤退する選択肢も検討しておく必要があります。
業界内や代替品の脅威が小さくても、莫大な初期投資や特殊技術が必要な場合や、売り手の脅威が大きい場合は、継続的な事業拡大が困難になる予測ができます。
もちろん、参入障壁が低ければ参入するべきとも判断できないため、ファイブフォース分析の5つの脅威すべてを把握し、自社の内部環境や事業計画を考慮して、総合的に判断する必要があります。
ファイブフォース分析の活用方法
これまで解説したように、5つの脅威について分析するのがこの手法の特徴です。しかし、個別の分析だけでなく、図の横軸・縦軸に沿って分析することで、「業界内での収益の上げやすさ」を検証したり、さらにその業界内で「自社がどれほどの利益を手にできるか」をチェックしたりという分析も可能になります。
売り手と買い手の分析から業界の収益性をリサーチする
図の横軸となる、自社の売り手と買い手それぞれとの力関係を検証することで、業界内の「利益の上げやすさ」を見ることができます。
市場に競合社が多く、また類似の製品やサービスが多ければ「買い手の交渉力」が強まります。つまり、買い手市場であり、買い手が自由に製品やサービスを選択できる状況であり、価格競争などで収益性が下がります。
また、自社に原料や製品を供給する売り手(サプライヤー)が少ない場合は「売り手の交渉力」が強まることによって、その市場は売り手市場になります。そのため、供給を受ける側に選択の余地がなくなり、値下げ交渉がうまくできず、やはり収益性が悪くなります。逆に、それぞれが逆方向に働けば収益性は上がります。
多くの場合、売り手と買い手それぞれの交渉力のバランスによって収益性の高低が設定され、それが「利益を上げやすい業界かどうか」という評価を決定します。
新規参入者や代替品から自社の利益の取り分をリサーチする
図の縦軸を検証すると、業界の収益性の中での「自社の取り分」をどれくらい確保できるかを把握することが可能です。
参入障壁が低い業界では、競合他社が撤退したとしても他業種から新たな参入者が登場する可能性が高くなります。競合が入れ替わり登場する可能性がありため、常に激しい競争をしなくてはなりません。これでは、業界の収益構造が良好でも、自社の取り分が小さくなってしまいます。その上、自社製品に代わる代替品の脅威が大きい場合は、自社の利益の取り分はさらに小さくなることが懸念されます。反対に、参入障壁が高く代替品の脅威が小さければ、安定した利益を見込むことができます。
この「縦軸の検証」でも、実際には新規参入者・競合・代替品それぞれの状況を読み取り、各要素のバランスによって「十分な利益を見込めるかどうか」を検討します。
自社が収益を上げやすい戦略へ結びつける
すでに説明した横軸と縦軸の検証によって、業界全体の収益性とその構造を知り、その中で自社の利益を確保しやすいかどうかを分析すれば、競合も含めた業界内での自社の強みを把握することができ、そこから「収益性の低下を防ぐためにどうするか」「競争の中でどのような優位性を確保するか」という発想に至ることができます。さらに、戦略の立案を行えば、脅威に対して実効性の高い施策をプランニングすることもできるようになります。
ファイブフォース分析に限らず、こうした分析法はあくまでも手段であって、その目的は具体的なマーケティング戦略や施策立案を実行して売上や利益の向上を実現することです。分析結果を活用した戦略を策定して、実効性を期待できる施策に活かしてこそ、分析の効果が発揮されるのです。
SWOT分析との併用
ファイブフォース分析は、自社を囲い込んでいる5つの脅威を分析によって明確にするものです。そのため、企業の社内外に存在するプラスとマイナスを分析する「SWOT分析」の前段階として利用することもできます。
ファイブフォース分析で得られる収益性のプラスマイナスを反映させれば、より詳細なSWOT分析が可能になるため、精度の高いマーケティング戦略の考案ができるようになります。
マーケティング分野には数多くの分析法がありますが、万能の分析法はありません。そのため、目的によって複数の手法を使い分けながら、様々な視点から分析することによって、結果の精度を高めていくことが重要となります。
ファイブフォース分析のメリット
続いてファイブフォース分析のメリットについて確認していきましょう。
自社の外部環境を正しく認識できる
ファイブフォース分析をすることによって、自社を取り巻く環境を正しく認識することができます。
自社を取り巻く環境を分析することは、自社に迫りつつある脅威を察知するだけではなく、自社にとって追い風となる時代の流れを把握することができます。
以前、テレビやパソコン、ウォークマンなどの家電販売で好調だったソニーは、その家電販売で苦境に立たされた時期がありました。安さで家電市場を席巻する新興国企業の参入、国内メーカー同士のカニバリゼーション、アップルやグーグルなどによるスマホの急激な普及で、ソニーの家電メーカーとしての強みは失われつつありました。
しかし、現在ではその危機を乗り越え、ゲームや映画、音楽をはじめとするデジタルコンテンツの配信で劇的なV字回復を果たしています。
自社の外部環境を正しく認識し、自社の強みを活かせなければ、今のソニーはなかったかもしれません。
自社の外部環境を正しく認識するためには、ファイブフォース分析が最適です。
自社を脅かす脅威に早く気付くことができる
ファイブフォース分析をすることによって、自社を脅かす脅威に早く気付くことが可能です。
特に新規参入の脅威や代替品の脅威を分析することは重要です。なぜなら、市場を構成するバランスやこれまでの価値観を破壊してしまうからです。
例えば、かつてフィルムカメラはデジタルカメラに市場を奪われました。しかし、ここまでは主にカメラメーカー同士の戦いでした。ところが、スマートフォンの登場によって、デジタルカメラ市場は急速に衰退しました。
これが「代替品の脅威」です。まったく違う角度からのアプローチによって、市場が急激に変化してしまいます。
しかし、フィルムカメラからデジタルカメラへシフトしていた日本企業の「富士フィルム」は、そこからさらにナノテクノロジーを活かして化粧品や医療の分野に進出しました。デジタルカメラ市場が衰退してもなお、好調な売上を維持しています。
一方、世界的に有名だったコダックは、カメラ市場の変化に対応しきれずに破綻してしまいます。
このような急激な市場や顧客ニーズの変化は、常に危機感を持って自社のマーケットを分析する他に対策手段はありません。
ファイブフォース分析を使って、自社を脅かす脅威に一刻も早く気付くことが重要となります。
自社の成長戦略が明確になる
起業独立を目指す人や新規ビジネスへの参入に挑戦する人も、ぜひファイブフォース分析を活用していきましょう。なぜなら、ファイブフォース分析を活用することによって自社の成長戦略を明確にすることができるからです。
外部環境は自社の力では変えることができません。逆に言えば、時代の波に乗り、市場ニーズを的確に捉えれば、自社は成長することができます。
一方、外部環境の分析が不足したまま、自社のこだわりや思い込みで市場に参入してしまうと、起業独立や新規ビジネスの立ち上げに失敗してしまうリスクがあります。
どんなに自社のプロダクトの完成度を高めても、どんなに販売スキルを高めても、マーケティングができていなければ、誰にも気付いてもらえません。
EVのテスラは、早くから電気自動車や自動運転の分野に参入していました。エネルギーや環境の問題が深刻になることと、自動運転の実現で起こるであろう劇的なイノベーションで、自動車市場に大きな変化が起こると予測していたからです。
当初、技術力や実用性で劣っていたテスラは、事故が起きるたびに評判を落としていました。
しかし、技術革新が進み、EV化、自動運転化の波が一気に押し寄せた現在、世界的に有名な自動車メーカーの時価総額を、テスラは大きく上回わるまでに成長しました。テスラは時代の先を正確に予測できていたことになります。
ファイブフォース分析をしっかりとしていれば、自社が取るべき戦略を明確にすることができます。他社にはない価値を創造し、市場の変化を捉えることができれば、自社を大きく成長させることができる可能性があります。
ファイブフォース分析の企業例・事例
日本のコンビニ業界のファイブフォース分析
既存の脅威 | 日本国内の大手3社(ファミリーマート、セブン-イレブン、ローソン)が市場の90%のシェアを占めている。商品ラインアップやサービスの充実度の競争が激化しており、既存の脅威は強いと考えられる |
買い手の脅威 | 24時間営業、ATMの設置、宅配受け取りサービスなどから、スーパーやドラッグストアより優位性は高い。買い手の脅威は弱いと考えられる |
売り手の脅威 | 大手3社はプライベートブランドなどを展開することでコスト管理を徹底。売り手の脅威は強くないと考えられる |
代替品の脅威 | 商品ラインナップはスーパーやドラッグストアと重なるが、豊富なサービスで差別化が図られている。代替品の脅威は強くないと考えられる |
新規参入の脅威 | 地域によって商品ラインナップを変化させたり、時間帯に合わせて弁当を充実させたりするなど、コンビニ独自の流通網が確実されている。新規参入の脅威は弱いと考えられる |
業界規模が大きく競争の激しいコンビニ業界は、代替品や新規参入の脅威は弱いと言えます。一方、日本の北海道で展開するセイコーマートのように、地域を限定して独自路線を築くコンビニなども登場しており、少なからず影響を与えています。
ユニクロのファイブフォース分析
既存の脅威 | ZARA、H&Mなどが知名度のあるブランドが多い。既存の脅威は強いと考えられる |
買い手の脅威 | ユニクロのシンプル&低価格という路線は他ブランドにも共通している。買い手の脅威は強いと考えられる |
売り手の脅威 | 店舗数の多さや競争力の高さは、生地の卸売り業者やデザイナーなどの売り手にとっても、大きな利益源となっている。売り手の脅威は弱いと考えられる |
代替品の脅威 | 月額制アパレルサービスや衣類のレンタルサービスなど、新しいサービスが進出しつつある。代替品の脅威として今後強まる可能性がある |
新規参入の脅威 | ZOZOなどインターネットのアパレル会社などの躍進があるが、ユニクロまでの規模になるには時間がかかると考えられる。新規参入の脅威は強くないと考えられる |
ユニクロは圧倒的な競争力の高さから、新規参入や代替品、売り手の脅威はあまり強くありません。しかし一方で、シンプルかつ低価格路線は他社と同じ部分が存在しており、既存や買い手の脅威は強いと言えます。
トヨタのファイブフォース分析
既存の脅威 | 日産やフォルクスワーゲンなど国内外の自動車メーカーが多く存在しており、既存の脅威は強いと考えられる |
買い手の脅威 | ブランドへの信頼度やイメージで自動車を購入する人が多く、買い手の脅威は強くないと考えられる |
売り手の脅威 | 国内トップ、世界にも通用する規模を誇るため、売り手にとっても大きな利益源となっている。売り手の脅威は強くないと考えられる |
代替品の脅威 | 都心では公共交通機関が充実しており、自動車を所有する必要性が低い。都心に限ったことのため代替品の脅威は強くはないが、弱いともいえない |
新規参入の脅威 | 圧倒的な生産と販売規模を誇るため、新規参入の脅威は弱いと考えられる |
自動車業界においては絶大な存在感を誇るトヨタですが、日本国内では自動車をもつ人自体が減っていることなど、自動車そのものの価値が変化しており、それに対応できる技術力が求められています。
スターバックスのファイブフォース分析
既存の脅威 | ドトールやタリーズなど知名度のあるチェーン店が多く存在しており、既存の脅威は強いと考えられる |
買い手の脅威 | コーヒーを飲むという点では他にも店は多く、買い手の脅威は強いと考えられる |
売り手の脅威 | コーヒー豆の仕入れ先の脅威は強くないが、好立地を選ぶ必要があるため不動産業者などの脅威は強いと考えられる |
代替品の脅威 | コンビニによる低価格で味にこだわったコーヒーなどがあり、代替品の脅威は強いと考えられる |
新規参入の脅威 | 回転ずしチェーン店ではすでに、デザートメニューを充実している。新規参入の脅威は強まる可能性がある |
スターバックスをファイブフォース分析してみると、業界における優位性はあまり高くありません。特に代替品の脅威であるコンビニエンスストアのコーヒーは勢いがあり、もともと店舗数の多いコンビニで展開していることもあって大きな脅威となっています。以上のことから、サービスやブランド力で差別化する必要が高まっていると言えます。
マクドナルドのファイブフォース分析
既存の脅威 | バーガーキングやシェイクシャックなど知名度のあるチェーン店が多く存在しており、既存の脅威は強いと考えられる |
買い手の脅威 | ハンバーガーを手軽に食べるという点では他にも店は多く、買い手の脅威は強いと考えられる |
売り手の脅威 | ブランド力の高さから、売り手の脅威は強くないと考えられる |
代替品の脅威 | ファストフード業界には牛丼やラーメン、カレーなどが充実しており、代替品の脅威は強いと考えられる |
新規参入の脅威 | アメリカのチェーン店などの参入があるが、新規参入の脅威としては強くはないと考えられる |
マクドナルドの店舗数の多さやブランド力の高さから新規参入の脅威は弱いですが、その他のチェーン店やカレーなどのファストフード店の脅威は強いと言えます。
まとめ:ファイブフォース分析は外部環境を分析するフレームワーク
今回はマーケティング分析の中でも、外部環境の分析に相性のいいファイブフォース分析について説明しました。
外部環境の分析は非常に重要であり、外部環境を分析していれば企業の成長を助けてくれます。逆に外部環境の分析をしなければ、成長することも生き残ることもできません。
また、起業する人や新規ビジネスを立ち上げる人にはファイブフォース分析が非常に重要です。なぜなら、もしも外部環境の分析を行わずに市場に参入してしまった場合、勝ち目のない勝負を挑んでしまったり、短期間で参入した市場が衰退してしまうことだって考えられます。
また、市場のどこかに自社にとって追い風となるポジションがあるかもしれません。ファイブフォース分析を繰り返すことによって、他社にはない自社の強みに気づくことができる可能性があります。
起業や新規ビジネスのローンチにおいても、しっかりと外部環境の分析をすることが重要です。