サブスクリプションとは、「月額」のような期間に応じて決まった料金を顧客に支払ってもらい、継続的にサービスを提供する収益モデルです。新聞や雑誌の定期購読などがサブスクリプションの典型的なモデルと言えます。
サブスクリプションモデルの主な特徴は以下のようなものです。
- 一定期間の利用料を決めてサービスを提供し、継続的な収益を得る
- 定額契約のため、収益獲得コストを削減できる
- 顧客に対して金額割引やサービス付加を行うなど、定期契約を選択するメリットの提供が必要となる
サブスクリプションには「会員型」と「定額プラン型」の2種類があります。
会員型とは、フィットネスクラブに代表される、毎月一定額を会員料として支払うことで使い放題になるサービスです。
定額プラン型とは、利用するサービス内容によって価格が決定され、その範囲内でサービスが使い放題になるサービスです。代表的なものに携帯電話のデータ料金などがあります。
いずれのサブスクリプションモデルも、安定した収益が発生する価格戦略として多くの企業に採用されています。
目次
サブスクリプションの4つのタイプ
2000年代以降に登場した新しいサブスクリプションモデルは「産業構造変化に応じた進化モデル」と言えます。進化系のサブスクリプションモデルには以下のような種類があります。
クラウド活用型
クラウド活用型とは、クラウド技術が発達して供給コストが下がったことで可能になったビジネスモデルです。動画配信や音楽配信などが代表例として挙げられます。これらのコンテンツは生活の中で「音楽や動画を再生し続けながら楽しむ」というニーズがあるため、多くの作品タイトルを取り揃え、利用し放題にする定額サービスは顧客の利便性を高めています。2019年からはAppleやGoogleが月額モデルのゲーム配信を提供し始めるなど、クラウド活用型のカテゴリーは拡大しています。
使用経済型
使用経済型はシェアリングエコノミーの定額版で、以前ならば所有していたものを借り放題にするサービスです。女性向けの日本のファッションレンタルサービスである「シェアル」は約60種類の有名ブランドのバッグやジュエリーを月額4800円で提供しています。他にも、車や家電など多様な定額レンタルサービスが登場しています。
LTV(Life Time Value)型
LTV型は、顧客の継続利用によって利益を発生させるビジネスモデルです。日本企業「キリン」の「ホームタップ」という定額サービスは、家庭にビールサーバーを無料で設置し、月に2回ビールを配達するサービスで、利用料金は2900円です。ジレットモデルとの違いは、必要となったらその都度購入するのではなく定額料金であることです。初期投資を安くする分、継続利用の期間を延ばすことで収益を上げることが重要となります。
コネクテッド型
コネクテッド型とは、専用アプリを用いて顧客にパーソナライゼーションしたサービスを提供するビジネスモデルです。例えばネスカフェが提供している「ネスレウェルネスアンバサダー」は、顧客一人一人に合わせた健康成分入りのドリンクカプセルを定期的に届けるサービスです。専用アプリで健康に関する質問に答えると、顧客に不足している栄養成分が推奨されるほか、日々の食事を撮影してアプリで送信すると生活習慣が分析され、次に届く製品選択に反映されます。
他のビジネスモデルとの違い
「リカーリング」とサブスクリプションの違い
「リカーリング」とは「繰り返す・循環する」という意味で、基本商品や基本サービスとは別に、さらに付加価値ある商品やサービスを購入してもらうことで長期的な収益を目指すビジネスモデルです。例えば、電気やガス、水道のような基本料金に「毎月使った分の料金」(従量課金)を追加で徴収するサービスや、利用にあたり消耗品の購入が必要になるプリンターのインクやウォーターサーバーの水などが例として挙げられます。定額制のサブスクリプションとのと異なる点は、リカーリングは必ずしも利用料が一定ではないことや利用状況に応じての従量課金の支払い、消耗品の購入などが必須となることです。
「リース」とサブスクリプションの違い
「リース」とは、比較的高額な機械や設備などを長期的に貸し出すビジネスモデルです。自費で購入するには高額な自動車や複合機、サーバーなどを、割安な月額料金を支払うことで「借りる」ことができるサービスです。複数の選択肢から使い方や好みに応じて借りたい商品を選べるメリットがあります。しかし一方で、複数年に渡る長期契約が前提となる場合があるため、いつでも解約できるサブスクリプションは違い、途中解約できない、あるいは違約金が発生するリスクもあるビジネスモデルです。
「レンタル」とサブスクリプションの違い
「レンタル」とは「有料貸し出し」という意味で、不特定多数の顧客に対して1日から数日(レンタカー、DVDレンタルなど)、短いものであれば30分から1時間の短期契約で駐車場などを貸し出すビジネスモデルです。サブスクリプションとの違いは「利用期間」です。一時的に借りて利用するなら「レンタル」、長期的に繰り返し利用する場合は「サブスクリプション」が適している利用方法です。さらにレンタルは返却が前提となりますが、サブスクリプションにおいては気に入らなければ交換、気に入れば購入できる場合もあります。
「シェアリングエコノミー」とサブスクリプションの違い
「シェアリングエコノミー」とは「共有経済」を意味する言葉です。一般的には個人の持つ自動車や家、家具などの資産、あるいはベビーシッターやホームヘルパーなどの家事代行のスキルを他人に貸し出す、あるいは貸し出しを仲介するビジネスモデルです。サブスクリプションは継続的な利用が前提となりますが、シェアリングエコノミーは継続利用する必要がなく必要な時だけ借りて利用できます。この点が両者の違いとなります。なお、サブスクリプションとは異なり、シェアリングエコノミーにおいて個人間で貸し借りを行う際はトラブルが起こるリスクが問題になっています。
サブスクリプションのメリット
事業者側のメリット
継続的に収益を得ることができる
サブスクリプションでは契約が成立すれば解約されない限り収益が発生し続けます。また、利用者×単価で売上の試算も行いやすくなるというメリットもあります。一般の商品のように、新商品を開発するたびに過去の実績、見込み客数などで売上を予測する必要はありませんが、顧客の新規獲得や解約阻止などのマーケティング施策はもちろん必要となります。
顧客の利用状況を把握できることで継続的なサービス改善が可能
サブスクリプションでは顧客の利用履歴をデータとして蓄積できるため、蓄積されたデータを分析・活用することで、継続的なサービス改善ができるというメリットがあります。これにより既存ユーザーの満足度を高めて解約率を抑えることできます。また、より広い範囲の新規顧客を集客できる可能性も生まれます。
業界や業種、デジタルやアナログ関係なく新規参入が容易
一般的なサブスクリプションビジネスではデジタルコンテンツを顧客にサブスクリプションしてもらうというイメージがありますが、自社が保有する既存の商品やサービスでも様々な形態でサブスクリプションを導入することができます。既存の遊休資産を上手に活用することができれば、より簡単かつ短期間にサービス化を行うことができ、さらに、既存の自社商品やサービスを利用する顧客をサブスクリプションに登録させることもできる可能性があります。
初期費用を安価にできるため新規ユーザーの獲得が容易
サブスクリプションモデルでは定額課金という点から初期費用を安価にできるためサービスを気軽に試せるようになり、新規顧客を獲得することが比較的簡単になります。例えば、数万円の商品を購入するよりもサブスクリプションによって月々数百円で商品を利用できれば、顧客の心理的なハードルを大幅に下げることが可能です。このように「所有から利用」の切り替えによって、一般の商品販売より収益を大幅に向上するケースが増加しています。
利用者側のメリット
初期費用が安価になるため、利用しやすい
サブスクリプションでは実際に商品やサービスを購入する必要がないため、比較的安価な月額料金でサービスが手軽に利用することが可能です。また、お試し期間を設けているサービスの場合、期間中は無料で利用可能することができます。サブスクリプションでは従来の商品購入やレンタルのような現物の受け取り・返却といった手間も必要ないため、所有することで生じる管理のコストやスペースも必要ありません。
好きな時に契約を解約できる
サブスクリプションは期間限定の定額サービスのため、いつでも好きな時に解約することができます。多くの場合、インターネット上で容易に解約手続きが可能であるため、試してみて相性が悪い場合はすぐに利用を停止できることもメリットの一つです。さらに、手元に不要な商品が残るといったリスクもありません。
契約期間中は利用し放題のため、サービスを利用すれば利用するほど得をする
サブスクリプションでは多くの場合、料金を支払うことで、ほぼすべてのサービスが使い放題になります。数回利用すれば支払った金額分のサービスを利用できることが多く、利用すれば利用するほど得をできる仕組みになっています。また、顧客の利用度に応じて、複数の料金プランが用意されている場合もあります。利用頻度に応じて、自分に合ったプランに気軽に切り替えられることもメリットの一つです。
モノを所有しないため、置き場所や管理が必要ない
サブスクリプションでは商品などを購入して所有することはなく、サービスやコンテンツを利用するため、手間がかかるな受け取りや返却などをする必要がなくなり、置き場所や管理を注意する必要がなくなります。サブスクリプションのBtoB利用においては、オンプレミスで自社サーバーを購入・構築・運用する必要がないクラウドサービスなどが代表的な例として挙げられます。
レコメンド機能によって興味や業務の幅を広げられる
サブスクリプションの中でもユーザーの利用履歴データを分析し、おすすめのコンテンツを提案してくれるレコメンド機能を搭載しているサービスが多く存在しています。例えば、音楽や動画を配信するサービスの大半はレコメンド機能を持っているため、未知のコンテンツの中から、利用者の好みに近いコンテンツをおすすめしてくれるため、興味の幅が広がります。また、業務利用の場合は、追加サービスにより業務の幅が拡大したり質が向上する可能性が生まれます。
サブスクリプションのデメリット
事業者側のデメリット
サービスの開始直後は利用者数が少ないため収益化までに時間が必要になる
サブスクリプションモデルはゆるやかに収益が増加していく仕組みのビジネスモデルのため、サービスを開始した直後に多数の利用者を集めることは難しいというデメリットがあります。多くの時間やコストを用意して取り組む準備をしていない場合、事業そのものが成り立たずに失敗してしまうリスクが存在します。しかし一方で、十分な計画と準備を行えば、「サービス開始からどのくらいの期間で資金の回収ができるのか」、「利益が出せるのか」を明らかにすることも可能であると言えます。
利用者や市場ニーズに合わせた商品やサービスをサブスクリプション化する必要がある
サブスクリプションでは、自社の製品原価に対して、どのくらいの顧客規模を獲得すれば安定した収益サイクルを持続できるのかを見極める必要があります。そこには、取り扱う商材の種類も大きく関係します。ニッチ製品のようなそもそも顧客規模が小さな市場はサブスクリプション向きではありません。
一方で、「Amazon定期おトク便」が取り扱う洗剤や文房具のような消費財や消耗品は、顧客の趣味、趣向に左右されることが少ないため一定の継続率が期待できます。
顧客の解約の意思決定を止められない
また、大きなデメリットの一つに「顧客の解約の意思決定を止められない」ことが挙げられます。特にコンテンツ産業のように、顧客の嗜好と品ぞろえしている製品にギャップが生じやすい産業では注意が必要となります。
またサブスクリプションでは、解約方法が簡単すぎる場合は顧客数が変動しやすく、逆に解約方法が複雑だと顧客の不安感を生みます。
顧客の解約を防ぐ手段にカスタマーサポートを充実させるという手段がありますが、新規コンテンツ制作や機能改善、カスタマーサクセスを実現するために開発費や人件費が必要になります。しかしこれらの手段を実施しない場合、利用者が離脱する原因となります。
自社のノウハウだけでは課題解決が困難な場合がある
ある調査によると、サブスクリプションビジネスに関する情報収集から開始までを自社だけで達成できるケースは2%に過ぎないという実態が判明しています。また、収益を拡大するにはデータ分析やデータ活用による継続的なサービス改善が必要となります。自社が保有しているノウハウでは解決できない課題に直面する場合もあるため、専門的な知見を持つ外部パートナーの力を借りるといった手段を用意しておくことが重要です。
利用者側のデメリット
利用しなくても料金が発生する
サブスクリプションサービスでは定期的に利用料金を支払う仕組みのため、頻繁に利用した月もほとんど利用していない月も同じ額の料金を支払う必要があります。サブスクリプションを解約することを忘れて、まったくサービスを利用していなくても料金を支払い続けるケースもあります。また、長期間利用すると購入するよりも結果的に割高になるサブスクリプションサービスもあるため注意が必要です。
解約するとサービスを利用できなくなる
これは当たり前のことですが、一度購入すれば物として所有できる一般の商品とは違い、サービスを利用するサブスクリプションは解約や解除した時からサービスが提供されなくなります。しかし、再びサービスの利用を開始したい場合は再度サービスの登録手続きを行なえばサービスを利用することができます。
不要な機能やコンテンツ、サービスに料金を支払ってしまう場合がある
サブスクリプションでは、まず最初に無料か低料金で簡単に商品やサービスを試すことができるため、何も考えずに利用を続けていると、不要な機能やコンテンツに対して料金を支払っている場合があります。サービスの利用後も不要な契約やオプションをアドオンとして追加してしまい、結果的に費用が増加してしまう場合もあります。
サブスクリプションの成功条件
一定数の顧客規模を維持できること
サブスクリプションモデルは利用する顧客が多ければ多いほど収益増加が期待できるため、顧客規模の獲得が成功の鍵となります。単純に商品を提供するだけでは顧客が割高感を感じることもあるため、継続的な支払いに対する付加サービスや割引をうまく提供する必要があります。一般的に、既存顧客の維持は新規顧客の獲得よりもコストが安価になるため、一定数の顧客基盤を築くことができれば安定した事業に成長する可能性が望めます。
「顧客の仕事」を果たす付加サービスが必要
クレイトン・クリステンセン(Clayton M.Christensen)は「ジョブ理論」において「顧客には片づけたい仕事があり、そのために製品やサービスを利用する」と説明しています。進化型のサブスクリプションモデルでは価格戦略だけではなく、「顧客が製品を通して何を実現したいのか」を理解し、付加価値としてサービスを提供していることが特徴です。
サブスクリプションの事例
エアークローゼット
エアークローゼットは、毎月定額料金を支払うことで、スタイリストが顧客に合わせて選んだ洋服をレンタルできる「コネクテッド型」の日本のサブスクリプションサービスです。会員数は30万人で、利用者は主に20代~40代の女性です。1ヵ月に3着だけレンタルできる「ライトコース」(6800円)と、1ッ月レンタルし放題の「レギュラーコース」(9800円)があります。
顧客が会員登録の際に洋服のサイズや体形の特徴、好きな色、挑戦したい服などの項目を入力すると、企業がデータに基づいて選ばれた服を顧客に届けます。
エアークローゼットの強みは、プロフェッショナル・ネットワーク(契約ブランドや契約スタイリストの量と質)と、顧客のデータ管理の組み合わせにあります。
契約ブランドは約300以上、契約スタイリストは約200人以上を保有し、顧客へのサービスの品質向上に貢献しています。また、同社は顧客の基本データの他に、顧客がスタイリストに対して行った要望コメントや、洋服が返却される際のメッセージなどもすべてデータ化し、データ分析に活用しています。
サブスクリプションにおいて、製品の調達とデータ活用の両方を上手に組み合わせることができれば、顧客満足度の向上と企業側の業務コストの削減(顧客ニーズ把握や製品選びに必要とする時間)の両方を同時に実現することができます。エアークローゼットはこの強みを生かし成長している事業です。
NORERU
NORERUは、中古車販売大手の日本企業である「ガリバー」が2016年から始めた、月額料金で自動車をレンタルできる「使用経済型」のサブスクリプションサービスです。月額59800円から車をレンタルすることができ、自動車保険、税金、車検といったランニングコストも月額料金に含まれています。顧客は新車・中古車だけでなく、スポーツカーやワゴンといった車種や車のボディカラーも選択でき、毎月別の車に乗り換えることも可能です。
NORERUは、中古車の在庫を大量に持つ「ガリバー」だからこそ実現できるサービスです。近年では自動車の売上台数が落ちていますが、その中でも中古車販売業が生存するためにビジネスモデルを「所有から使用」へ転換しました。
Microsoft 365(office 365)
Microsoft社は、Officeアプリケーション「Microsoft 365」をサブスクリプションで提供しています。以前はライセンス権を売り切りで販売しながら、PCにアプリケーションをインストールしないと利用することはできませんでしたが、現在はアプリケーションがクラウド化されたことでインターネット上でダウンロードできるようになりました。月額で一定額を支払うとOutlook・Word・Excel・PowerPoint・Access・Publisher ・OneDriveのすべてのソフトウェアを利用することができます。
サービスをサブスクリプションにしたことにより、価格の安さや導入のしやすさなどから利用者が増加し、売上も大幅に増加しています。
Amazon プライム
Amazonは、「Amazonプライム」をサブスクリプションで提供しています。AmazonプライムはPrime Video、Prime Music、Amazon Photos等のデジタルサービスを利用できるサブスクリプションです。非常に安価で複数のサービスを利用できるため、利用者数は全世界で1億人を超えています。
もともとAmazonはインターネット上のショッピングモールを運営する企業ですが、配送無料の他に付加価値のあるコンテンツを含めた会員プログラムをサブスクリプションで提供するビジネスを提供しています。これらのサブスクリプションビジネスによって顧客のエンゲージメント率を高めると同時に、顧客満足度の向上に取り組んでいます。
サブスクリプションの市場規模は今後も拡大していく
動画配信サービスでは、2016年以降、右肩上がりに市場規模が拡大し、2021年は800億ドルを超えることが想定されており、そして2023年には1,000億ドルを超えると予測されています。世界規模で動画配信サービスへの関心が徐々に高まってきているのが分かります。
音楽配信サービスも2016年以降、右肩上がりに市場規模が拡大しています。さらに2021年以降は市場規模が200億ドルを超えることが想定されており、今後もさらに市場が拡大していくことが予測されています。
特に米国で盛んに実施されているサブスクリプションモデルですが、近年では日本でもサブスクリプションビジネスの市場規模は大きくなっています。
日本の消費者庁の資料「サブスクリプション・サービスの動向整理」によると、2018年の時点で日本でのサブスクリプションビジネスの市場規模は5,600億円以上まで拡大し、2023年には8,600億以上になるとの予測があるなど、さらに市場が成長することが予測されています。
以上のように全世界でサブスクリプションビジネスの市場規模は今後も拡大していくはずです。