ビジネスモデル

リバース・イノベーション

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リバース・イノベーションとは、多国籍企業が自社の製品サービスを先進国ではなく、「発展途上国のニーズ」を基にして開発し、販売を行うことです。
従来、多国籍企業が新興国や発展途上国に進出する際には、先に先進国で開発・販売し、その後「その製品と同等の製品」か「機能を絞った廉価版」を新興国や発展途上国で販売することが一般的でした。この点において、リバース・イノベーションでは商品開発の流れが従来の方法とは逆であることから「逆流(Reverse)」という名称が付きました。
 

リバース・イノベーションの由来

リバース・イノベーションの概念は、アメリカのダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのビジャイ・ゴビンダラジャン教授(Vijay Govindarajan)らによる著書『リバース・イノベーション』によって普及しました。

近年、先進国と新興国・発展途上国とのニーズの違いにマッチする新製品開発の必要性が高まっていることもあり、リバース・イノベーションが注目されています。また、リバース・イノベーションは「先進国でのニーズ」という多国籍企業にとっての「常識」の枠を取り外して、革新的な製品コンセプト・機能を創造するためにも注目されています。

 

 

リバース・イノベーションとグローカリゼーションの違い

グローカリゼーションとは

リバース・イノベーションが世界的に有名になる以前は「グローカリゼーション」が主流でした。
グローカリゼーションとは「グローバリゼーション(国際規模)」と「ローカリゼーション(地域的)」を合体させた造語です。グローカリゼーションの具体的な手法として、世界的に活躍する企業が世界共通の商品を販売する一方で、その国や地域に合わせて仕様を変更(ローカリゼーション)した商品も同時に提供します。2つの事業を進めることで販売やサービスを拡大させる手法です。
 

リバース・イノベーションが注目される理由

現在世界で活躍する企業は、社内で多様なイノベーションを起こしながら事業を発展・継続させています。20世紀以降は、各企業が世界をターゲットにする戦略を実施しながら、現在も先端技術の中から「シーズ(技術や商品に結びつく種)」をピックアップして事業に融合させています。しかし、先進国や先端技術から生み出された商品が単純に新興国や発展途上国の「ニーズ」にマッチするとは限りません。逆に、新興国や発展途上国のニーズにマッチした商品やサービスが、先進国でも商品としての価値を上げることが注目されています。
 

リバース・イノベーションのメリット

新しい技術や発想を得ることができる

リバース・イノベーションを実践すれば、国内だけで商品開発をしていると生まれないような新しい技術やノウハウを獲得できるというメリットがあります。
そしてこの生まれた新しい技術やノウハウは、国内だけで開発を行っている競合他社に対する大きな差別化となる可能性があります。
先進国である国とは環境の異なる発展途上国や新興国で開発を行うからこそ、新しい商品やサービス、事業などを作り出すことができます。
 

多国籍企業の成長戦略に適している

中国やインドなどの新興国の経済が発展し、巨大なマーケットに成長した現在では、グローカリゼーションのような先進国主導型のグローバル戦略は適した手法ではありません。
発展途上国の市場は現在ではレッド・オーシャンが多く存在しており、先進国の商品の単純な劣化版では現地では収益を獲得することが難しくなっています。
日本の経済産業省によると、世界の実質GDP成長率における新興国・途上国のシェアは4割も占めており、新興国の巨大なマーケットで成功するためには現地のニーズにマッチした商品開発やマーケティングが必須となっています。

 

 

新興国を開発拠点にした方が効率的

新興国や発展途上国のニーズを把握するためには、ターゲットとなる国や地域に開発拠点を置くのが一番効果的です。例として、GE社によるインドでの心電図マシン開発の背景を説明します。
先進国の心電図マシンを改良し、コストカットに成功しても、インドではシェアを獲得できません。インドには病院がほとんどないため、マシンは持ち運びできるものである必要があります。
また、インドは農村地帯が多いため、マシンに必要な電力供給ができない地域が多く存在します。そこで、アメリカのGE社はインドに開発拠点を設立して、電池で動くリュックサック型の心電図マシンを開発しました。
このマシンはアメリカに逆輸入されることになり、現在では世界90ヶ国でシェアを獲得しています。新興国の市場で成功するには、まず新興国の地域情報を把握する必要があるのです。
 

リバース・イノベーションのデメリット

シンプルな低機能・低価格では成功できない

リバース・イノベーションが誤解されやすい点は、低価格や低機能という側面にだけ注目される点です。現地でのイノベーションを可能にする上で、低価格や低機能は必須条件ではありません。重要なことは、現地のニーズや問題解決にマッチした製品開発を行うことです。
例えば、2009年に約20万円という低価格で発売されたインドのタタ・モーターズの超小型車「ナノ」は、インド市場での普及を目指した自動車が欧米市場などで勝てるのか負けるのかが当時注目されました。しかし、2022年現在も普及は進まず、生産停止も予想されています。このことから低機能・低価格にすることがリバース・イノベーションの成功法則ではないことが確認できます。
また、「製品開発にのみ注目されやすい」という点もデメリットとなります。リバース・イノベーションが現地で実行されるには、実際には流通業者やサプライヤーなどの事業の関係業者との協業が必要となります。製品の設計のみならず、ビジネスモデル全体の設計という発想を持つ必要があります。
また、新興国や発展途上国でイノベーションを起こした製品を先進国で販売する際に、既存製品とのカニバリゼーションのリスクや、先進国でのニーズとのミスマッチのリスクなどがデメリットとして挙げられます。

 

 

既存の製品やノウハウを新天地で活用することができない

リバース・イノベーションを実践する場合、既存の製品やノウハウを新天地で再活用することが推奨されません。
理由としては、先進国のニーズや環境をもとに開発した製品やノウハウを転用した場合、途上国や新興国のニーズを十分に把握できていない商品を提供してしまうことになるからです。
まず初めに、既存の製品やノウハウを再活用すると先入観に固執してしまうため、新しい技術や製品を生み出すことが難しくなります。
そのためリバース・イノベーションを実践する場合、資金や労力を十分に用意して1から挑まなければいけません。
 

対象国の文化や気候に注意が必要

対象とする国や地域について、文化や気候には十分注意しなければいけません。
文化や気候を無視してしまうと、新しく生まれた技術を本拠地に持ち帰る時に上手く働きません。
リバース・イノベーションを前提として商品開発をする場合は、対象国を選ぶ時に検討する必要があります。このようにリバース・イノベーションにはいくつかのデメリットや注意点もあります。

 

 

リバース・イノベーションの事例

GEヘルスケア

GEヘルスケアは当時新興国であった中国市場の医療現場のニーズにマッチするように開発した超低価格の超音波診断装置(15,000米ドル、従来の低価格帯商品の約15%)を提供しました。その後、その製品は先進国でも販売されることになりました。
低コストの装置が欲しいという顧客は、新興国や発展途上国だけでなく、先進国でも存在していたのです。このように、先進国ではなく、新興国や発展途上国の現地発でイノベーションを起こすことを「リバース・イノベーション」と呼びます。
なお、GEヘルスケアは、最初からリバース・イノベーションの仕組みを構築したわけではありません。実際、最初は自社の先進国における主力商品である高級超音波診断装置を中国で流通させようと試みました。しかしそれは失敗し、中国現地のニーズを深く理解することで、村落部での医療活動でも使いやすい「先進国の製品とは全く異なる製品」を「現地のユーザーが購入できる超低価格」で生み出すことに成功したのです。
 

P&G社

消費財メーカーのP&G社が取り扱う髭剃りの「ジレット」は、欧米市場で高シェアを占める高品質商品です。当初、同社がインドに進出した際には、同社の「マッハ3」のような低下価格帯の製品を、パッケージのデザインを変えて販売していましたが、インド人の男性に支持されずシェアを伸ばせませんでした。
そこでP&G社はその理由を調査するために、現地で繊細なマーケティングリサーチを行い、「インドの男性が欧米の男性とは異なる方法でひげを剃っていること」を発見しました。インドの男性は床に座って、少量の水を汲み、薄暗い中で手鏡を見ながら二枚刃の髭剃りで剃っていたのです。そして、その剃り方では、剃り傷を負ってしまうことが頻繁にあることも判明しました。
これらのリサーチ結果を受けてP&G社は現地の状況に適応するために以下のような製品を開発しました。

  • 性能は中グレード
  • 流水での掃除が不要
  • 剃り傷が付きにくい構造
  • 低価格

製造は現地で行い、価格は15ルピー(約0.3米ドル)の剃り刃と5ルピー(約0.1米ドル)の替え刃で販売を開始しました。この価格は先進国の通常価格の3%以下の水準となっています。
また、現地の個人経営店を流通チャネルとしたり、インドの映画スターをCMに起用したりと、現地発の流通・販促施策を実施しました。その結果、ジレットのインドでのカミソリのシェアは50%を超えることになりました。

 

 

LIXIL

LIXILは住宅やビルの水回り設備や建材を取り扱う日本企業です。同社は現在、自社製品の提供を通して世界の公衆衛生問題の解決にチャレンジしています。
例えば、同社が販売する「SaTo」(Safe Toilet)は、ケニアなどの農村部の現状を反映させて開発された簡易トイレです。SaToは低コストかつ低水量で導入・運用できるもので、LIXILは新興国や発展途上国での普及を目指しています。
そのために、同社内にSaToの事業展開のための専用組織も構築しました。また、水を使用しないで排泄物を資源循環させる「グリーントイレ・システム」などの普及も目指しています。
こうした製品は、新興国や発展途上国での利用だけでなく、先進国の被災地や水不足の地帯などでの利用も期待されています。

 

 

デンソー

日本の自動車部品メーカー大手企業のデンソーは、海外企業を含めた自動車部品業界の中で唯一、ASEANに9割以上の現地人材で構成された開発拠点を設置したことが注目されました。地域に密着したコア技術の開発と自社の現地人材を直接派遣した現地ニーズのヒアリングを実施して実現させています。提供しているサービスには、渋滞しやすい新興国の交通事情を考慮したバイク向けアイドリング機能や、現地人のニーズで実現したエアコンの吹き出し口の削減、高機能化のニーズを満たしたオート機能付きカーエアコンなどがあります。

 

 

本田技研工業株式会社

本田技研工業株式会社の主力商品である「スーパーカブ」は世界最多量産のオートバイであり、国内外で大きな人気があります
しかし、一方で人気があるという理由で新興国を中心にコピー商品が多く出回っているという実態もありました。
本田技研工業株式会社が海外へ進出した時、その現状を逆手に取ったことが大きな注目を集めました。
なんと、コピー商品を生産している会社を自社と合併することにより安価な商品の生産拠点の獲得を可能にしたのです。
現地のニーズを把握すると同時に、「スーパーカブ」を安価に生産することを可能にした戦略は素晴らしい手法です。

 

 

ゼネラル・エレクトリック社

リバース・イノベーションという戦略を生み出したとされるアメリカのゼネラル・エレクトリック社(以下、GM社)では、新興国向けに製造された医療用診断機器が注目を集めています。GE社は世界の企業の中でもパイオニアとして中国やインドに開発拠点を移した企業でもあります。増加する中国の地方診療場に対応するために実現した音波診断装置(小型軽量・低価格)やインドでのニーズにマッチさせた電池式リュックサック型の心電図マシンなどは、先進国でも新たな市場を開拓し、現在ではグローバル製品として成長しました。
 

リバース・イノベーションの成功条件

リバース・イノベーションの成功のためには「国際展開を行っている企業であること」という前提条件に加えて、以下の2つの条件をクリアする必要があります。

グローバルな人材を育てること

リバース・イノベーションにおいては、現地のニーズにマッチした商品開発を行うためにグローバルな人材の採用、教育が必要不可欠な条件となります。
現地では、言語はもちろん、文化も考え方も違う人材を採用し、管理・統率していく必要があります。
また、自国の考え方では通用しないことも多く存在します。そのため、言語力のある人材や柔軟な対応ができる現地の人材を採用し、海外進出の対象となる国や地域のニーズをしっかりと教育することも重要な条件となります。
 

現地市場のニーズにマッチした製品開発・事業展開を行うこと

リバース・イノベーションの例から理解できるように、先進国の消費者ニーズに基づいて開発された製品の廉価版を新興国や発展途上国に持ち込むという発想ではなく、現地市場のニーズを深く理解して先進国での事業展開の常識の枠を取り外す必要があります。
例えばP&Gは、インドでの髭剃りの開発の際に、現地でエスノグラフィー(文化人類学の調査手法)に基づく定性的なマーケットリサーチを遂行し、現地の消費者のニーズをゼロから定義しなおしました。また、流通・販促施策においても、先進国で行っている施策とは異なる施策を実施しました。
 

事業展開の権限を現地の組織や専門組織に委譲すること

リバース・イノベーションを実施するためには、既存事業とは異なる製品開発・事業展開が求められます。時には、自社の既存事業とのカニバリゼーションを起こす可能性もあります。例えばGEヘルスケアが事後的に先進国で販売した超低価格製品は、同じ市場での中高価格帯の自社の製品とバッティングします。
そこで必要なことは、新興国や発展途上国での事業展開を、既存事業と切り離して、現地の組織や専門組織へ権限委譲することです。例えば、LIXILでは「SaTo」の展開にあたって専門部署を設立しています。P&Gの用いたマーケティングリサーチの人材も、既存事業とは異なった見方ができる専門人材だと推測されます。また、GEヘルスケアの例においても、中国での製品開発・事業展開にあたって、経験豊富なプロジェクトリーダーに権限を委譲したと言われています。

 

 

リバース・イノベーションの注意点

既存の戦略・セグメントを再利用しない

他国で新しく事業を開始する際、既存の製品を再利用することでコストカットが可能になると考える企業がしばしば存在しています。
しかし、これは実際にはリバース・イノベーションを実施する際には間違った考え方であり、新しい考え方を取り入れることができないという点でデメリットにもなります。
例えば、アメリカのトラクターメーカーであるJohn Deere社は、インドに進出する際に新興国向けに既存のものを小型化して改良したトラクターで市場でシェアを獲得しようと試みました。しかし、実際には既存のトラクターを改良したものではインドの農民のニーズにマッチしていませんでした。
アメリカ向けのトラクターは旋回半径が非常に大きくなっており、インドの小さな農園には不向きだったのです。
そういった経緯から、John Deere社はインドのニーズを把握して新しいトラクターをゼロから作る必要性がありました。そして、インド向けにトラクターを初めから開発することでJohn Deere社はインドで成功することができました。
このような失敗を避けるためには、先入観を捨てることが求められます。
解決策ありきで問題を考えるのではなく、問題を先に定義して、そこからゼロベースで解決策を考えることが成功の鍵となります。
 

商品の価格を下げるために機能を減らさない

商品の価格を下げるために最も簡単なことは、機能を減らすことです。しかし、その簡単な手法を安易に実施することは間違いです。
アメリカの例ですが、インドへの進出の際に機能を減らして価格を下げて販売したところ、顧客満足度が大幅に下がり商品が売れなかった例があります。
新興国では完全な機能の商品を1/10の値段で売ることが必要とされています。これは不可能のように見えますが、言い換えれば工夫が求められるということです。
1つの例を挙げると、既存のデザインを採用せずに商品を組み立ててコストをカットするという手法もあります。例えば、現地で安価に製造されている商品を応用して現地の商品の技法を自社の商品に採用してコストカットをする手法などがあります。
 

新興国の文化や気候、技術を無視しない

世界中の国の間では文化や気候、技術が異なるため、それを決して無視してはいけません。
科学の法則は普遍的であり、どの国でも同じルールで働きますが、それ以外の要因に関しては同じルールでは働きません。
例えば、かつてイギリス人がインド人の宗教的背景を考慮しなかったために銃の薬莢に牛豚の油を使ってしまいセポイの乱が起きたように、一方にとっては重要なことでなくても、もう一方にとっては大きな問題であることが世界には多く存在しています。
他にも、新興国の水不足の農村地帯に子供達が遊べるようなメリーゴーランドを置いて、子供達がメリーゴーランドを回すために押す動力で水を組み上げようとしたプロジェクトがあったものの、これも文化的・技術的背景を十分に考慮しなかったために失敗しました。
両者にとってメリットがあるように思われた方法でしたが、子供達は大人数で毎日疲れるまでメリーゴーランドで遊ぶ必要があり、子供達の人数や体力を考慮すると欠陥のあるプロジェクトでした。
また、雨の日や台風などの気候のことも考慮して計画するべきプロジェクトでした。
このように、簡単なように見える新興国への進出ですが、様々な条件をより検討するべき条件が多く存在しています。
 

新興国で人気を得た商品をそのまま先進国で流通させない

先進国の人々はブランド志向が強く、新興国で人気を得た商品でも先進国では売れない可能性もあります。
また、機能が充実していて安価な商品を安易に市場に出してしまうと、高価で利益率の高い自社の商品が売れなくなってしまうというリスクもあるため、しっかりと検討してから先進国で販売することが重要となります。
例えば、フランスの自動車メーカーである「ルノー」はウクライナで6,500ドルという低価格にも関わらずサイズが大きく、収納スペースが豊富で安全性の高い車の開発に成功しましたが、その車をそのままフランスで販売することはしませんでした。
安全装備をさらに充実させ、塗装もさらに豪華にすることで本国では9400ドルで販売しました。
結果として、この車は人気になり、利益率を確保しながらフランス人にとって安価で機能性も十分な車を提供できました。
このように、新興国で開発した商品をそのまま先進国でも流通させるのではなく、市場の状況を見ながら判断することが必要だということが分かります。
 

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