ビジネスモデル

BTO

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BTOとは、「Build To Order」の略称で、カスタムできるように部品の状態で用意しておき、注文を受けてから、顧客の要望に合わせて製品を組み立てる「受注生産」を行う製造業のビジネスモデルです。インターネットなどを駆使した受注生産で、顧客のニーズに合わせた製品を安く提供します。
従来の大規模工場では、低コストの製品を大量生産できましたが、一つ一つ違う製品を作ることが出来ませんでした。しかし、ITや生産技術の向上などによって、BTOの工場ではサプライチェーン・マネイジメントによって生産の流れを細かくコントロールしながら低コストでの大量生産と柔軟な対応の両方を実現しています。その際、消費者と直接取引を行うことで中間マージンを削減しています。
単なる受注生産なら古くから行われてきましたが、「BTO」は、ITや生産技術などを駆使して、低コストの大量生産を行いながら、個々の要望にも柔軟に対応していくという特徴があります。この仕組みは「マスカスタマイゼーション」と呼ばれることもあります。
優れたBTOの仕組みを確立し、その名を世の中に認知させたのは、パソコンメーカーの「Dell」です。Dellの成功によって今では多くのパソコンメーカーがBTOを導入しており、そのように作成されたパソコンは「BTOパソコン」と呼ばれることもあります。

 

 

BTOの仕組みの作り方

顧客のニーズが多様で、かつ適切な単位に分けられる製品であること

BTOに適している製品は、例えば上述したコンピュータや自動車、靴や衣類といったように顧客のニーズが多様であることが重要です。例えばコンピュータであれば求めるスペック、衣類であればサイズやデザインといったように顧客の要望は様々です。これらの要望に応えるために、かつ大量生産の強みも逃がさないように、製品・サービスを構成する部品・パーツを適切な単位に分類できるものがBTOに適していると言えます。
 

生産・販売へのITの活用

マスカスタマイゼーションにおいては、顧客の趣向を細かく理解した上で、製品・サービスのカスタム化を可能とする仕組みが必要となります。また、コストを下げて、製品の販売までのリードタイムを短縮する生産システムも必要です。例えば、adidasやBMWのように、全自動車工場や生産現場での3Dプリンター、CADなどの情報技術の活用が必須です。これは、設計情報をデジタル化して送信すれば、3Dプリンターが色、計上、素材などを適切に選択して製造を行えるためです。また、工作機器や生産ラインに稼働状態を監視するIOT(Internet of Things)の存在も大きく、バイクで有名なハーレーダビッドソンは、IOTを導入した工場により顧客への納品リードタイムは2~3週間短縮するという成果を得ています。
生産過程を柔軟に変化させるためには、各工程のモジュール化が前提となってきます。一つの工程が他の工程へ大きく影響を及ぼす場合、低コストでカスタマズを行うのは難しいため、ロボットや3Dプリンターでも対応しやすいプロセスにしているからこそ、BTOが実現できます。
 

 

BTOの実現に必要な技術

設計の技術

設計の技術は、顧客ニーズをデータ化し、製品の設計へ反映させるために必要となる最初の入り口であり、代表例としては、「ジェネレーティブデザイン」という技術が挙げられます。
ジェネレーティブデザインとは、例えば、adidasならば顧客の好みの靴の色や形、デザインをウェブブラウザ上(フロントエンド)などで入力するなど、顧客自身が製品の設計を可能にする技術であり、完成したデザインデータは、工場へ送信することで生産に利用されることによって顧客のニーズに限りなく近い形での製造を実現します。
 

製造の技術

製造の技術とは、フロントエンド側から送られてきた顧客ニーズのデータをもとに、実際に製造するための工場の技術や設備(バックエンド)を指します。
具体的には、「デジタルファブリケーション」と呼ばれる技術が挙げられ、CADや3Dプリンタなどのデジタル工作機械を用いて、データを元に素材の切り出し・加工・成形を行うことが可能になり、また、オーダー状況に応じて生産ラインを柔軟に変更できる設備も重要となります。したがって、自律的に動作する無人搬送車や産業用ロボット、工作機械同士がデータの送受信を行うIOT技術や5Gによる無線通信などもバックエンドの要件に含まれます。スマートファクトリーの実現が期待される将来には、BTOはさらに高度化されると予想されています。
 

デジタルツイン

デジタルツインとは、現実世界のデータを用いてデジタル空間に再現された、現実と仮想が双子(ツイン)になるような仮想モデルです。主な特徴は、IoTなどの活用によってデータをリアルタイムに同期し、単体としてのモノだけでなく、生産工程やモノの動作環境などのプロセスそのものまで再現できる点にあります。
BTOは多品種生産のため、製造工程での部材や工作機械などの動きが複雑で管理しづらいという課題も存在するため、そこでデジタルツインを活用することで、実際の工場の動きと、仮想空間でシミュレーションした結果と合わない部分をリアルタイムで検知可能となります。デジタルツインは現時点では実証研究段階の技術ですが、BTOとの相性は抜群で、生産管理能力の飛躍的な向上が期待されます。
 

BTOのメリット

大量生産とカスタム化のメリットを同時に得られる

マスカスタマイゼーションは、大量生産のメリットとカスタム化のメリットを一定程度両立できるビジネスモデルです。上記のDellやBMWの事例からも分かる通り、BTOでは組み合わせを行う部品の「パターン」をいくつも用意することでパターン単位での生産ボリュームを確保します。結果として、まず大量仕入れ・大量生産によって製品減価や生産コストを下げることができます。また、組み立てにかかる時間を短くすることで、出荷までのリードタイムを縮めることができ、これは大量生産のメリットだと言えるでしょう。
同時に、マスカスタマイゼーションでは、顧客のニーズに応じた仕様変更が可能となったり、多様な部品を抱える場合に比べて在庫の発生リスクを下げたりすることができます。顧客が手にする製品には、画一品にはない付加価値があるため、これらはカスタム化のメリットと言えます。
 

ファンの獲得

アメリカのコンサルティング会社「ベイン&カンパニー」の調査では、約3割の消費者が自分用にカスタマイズされた商品を購入したいという考えている結果が出ていることを公表しています。
ソーシャルメディアで日々の暮らしを投稿する若者にとっては、人にシェアしたくなるようなカスタマイズされた体験を求めています。そのため一人一人の要望を叶える顧客中心の企業には多くのファンが付いてくるようになります。
 

 

BTOのデメリット

大量生産とカスタム化の両立は難しい

BTOのカスタム化に力を入れ過ぎてしまうと、純粋なカスタム化、つまり個別対応(オーダーメイド)へ近づいていきます。顧客のニーズに応えるという意味では、一見いいことのように見えますが、カスタム化の過度な追及は「大量生産によるコストダウン」という規模の経済のアドバンテージを損なうことに繋がるため、注意が必要です。しかし、効率化のために共通化を進めすぎれば、今度はコモディティ化(=均質化)により製品の付加価値が生まれません。そこで、マスのメリットを得るために共通化を進めつつ、一方でユーザーが選べる選択肢の要所を押さえて用意するということが重要なのです。
また、BTOへの移行は、企業の既存のセイサンシステムや販売システムに見直しを求めます。見直しにおいては既存の体制からの抵抗も予想されます。

 

 

BTOの事例

Dell

1984年にアメリカ・テキサス州で創業したDellは、PCの部品が規格化されていて組み立てが可能であったことに着目して通信販売で顧客から注文を受け、一人ひとりの希望に合わせて外部から部品を調達して完成品を配送するというビジネスを始めました。Dellは、PCの部品ごと(CPUやハードディスクなど)にいくつかパターンを用意し、直販モデルによる受注生産(BTO)の仕組みを用いて、顧客のニーズに合わせたカスタムオーダーの製品を販売しています。当時画期的だったこのビジネスモデルは「ダイレクト・モデル」と呼ばれ、創業時に資本金わずか1,000ドルだったDellを、1998年にはPC売上の世界販売数2位の企業へと成長させました。顧客はカスタマイズされた製品を安価で手に入れることができ、Dellは不要な在庫を抱えないため、双方に大きなメリットがあります。
1990年後半に通信販売からインターネット販売に移行してからは、顧客の購買データを管理することで、過去の履歴から業務や用途に必要な機種を適切に調達するサービス提供も展開しています。

 

 

NIKE

近年のBTOの成功事例としてはNIKEが挙げられます。
同社は、1999年、スポーツシューズをユーザーの好きなようにカスタマイズできるサービス「NIKEiD」をアメリカで開始しました。ウェブサイト上で、サイドに書かれたラインやソール、紐などを細かにデザインできることから自分だけの靴を手に入れたい人に支持されています。
最近は技術の進歩によって、3Dプリンターや3Dスキャナーなど、思い通りに一点物が作れる機器の開発が進んでいます。これらを活用して様々な物をオーダーメイドで作成できるサービスも出現しています。さらに技術が発展し、さらに多くの製品が作れるようになれば、BTOのようなイージーオーダーだけでなく、フルオーダーのニーズが多様な分野で高まるかもしれません。
 

adidas

スポーツ用品メーカーのadidasは、BTOによる製品の販売に力を入れている企業です、その大きな武器となっているのが、ドイツのadidasの全自動工場である「スピードファクトリー」です。
スピードファクトリーでは、コンピューターを活用した編み機やロボットなどを活用することで、靴の製造工程のほぼすべてを自動化しています。また、同工場では、靴の素材や足の形などの情報をもとに、個々人に適切な靴のデザインを設計できる3次元モデル技術が用いられています。これらの技術によって、顧客のニーズに応じた靴を低コストで製造することが可能になっています。また、注文された商品は消費地に近い工場で製造されているため、輸送にかかるコストや時間が圧倒的に削減できます。adidasは従来、新興国における低賃金の労働者による生産を行っていましたが、新興国での賃金上昇によりコスト優位性を活かせなくなっていました。そこで主要な消費地および本社所在地であるドイツに、ロボットを中心とした生産ラインを開発し、低コストでありながら、顧客の要望を柔軟に対応できるようにしたのです。
 

ハーレーダビッドソン

大型オートバイを提供するハーレーダビッドソン社もBTOを実施している企業の一つです。
ハーレーの魅力はその迫力だけでなく「カスタマイズ性」にあり、ハーレーダビッドソン社はそのカスタマイズ性から、世界に一つだけの自分のオートバイを造ることができることを強みとしています。
ハーレーダビッドソン社はそんな自社オートバイの特性を理解した上で、BTOを活用したサービスを提供しています。2011年、それまで純正オプションパーツを数多く製造・販売してきたハーレーダビッドソン社ですが、「Build your own bike」を立ち上げ、「初めから」カスタムオートバイを購入できるサービスを提供しました。
顧客はシート、ハンドル、車輪、マフラーなどあらゆるパーツを独自に組み合わせ、自分だけのバイクを始めから手に入れることができます。ハーレーダビッドソン社のBTOを支えるのは「スマートファクトリー」と呼ばれる技術で、スマートファクトリーとは、製品工場内にあるラインやセンサー、そして様々な設備をネットワークに接続することで、データの一元管理によって生産におけるあらゆる情報を可視化するという生産概念です。製品の品質、生産状況などをシステムで管理することによって、システム化の恩恵を最大限に受け、かつ生産の効率性を最大限に高めます。
ドイツ政府が国家プロジェクトとして取り組む“インダストリー4.0”も、スマートファクトリーと同じ概念を持ちます。
 

 

 製造業のサービス業化

従来の製造業は、安く良い製品を届けることを目指して生産工程の最適化を図ってきましたが、BTOでは、製品そのものよりも顧客にとっての「購買体験」の最適化へとビジネスモデルが変化しています。最近の製造業において、低賃金の労働者やロボットでも生産が行える状況を見ると、製造・組み立てを担当できる経営資源がコモディティ化したものと考えられます。そのため、生産工程そのもので差別化をはあるのが難しい時代に突入しました。生産工程そのもので差別化が難しい場合、商品企画や顧客向けサービスで差別化するのが望ましく、顧客中心のマーケティングで各個人のニーズを把握したり、ブランド認知を高めることで固定ファンを増やす試みがより良い付加価値を生み出します。また、配送までのリードタイムが短く、アフターサービスやメンテナンスが充実している企業に顧客は価値を見出します。
アディダスやハーレーダビッドソンの事例が物語るように、製造業は単に製品を届ける業態ではなく、自分だけにカスタマイズされた商品によって顧客が「自己実現」を行えるよう、顧客の要望に合致した製品を最適な価格、リードタイムで提供するビジネスモデルに変わりました。製造業は「モノづくり」を超えて、顧客の要望を実現する「サービス業」へと変わりつつあります。
 

まとめ

企業のマーケティングにおいては長らく「マス・マーケティング」が用いられていますが、近年は個々の顧客ニーズを満たそうとする「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」が意識されています。マスカスタマイゼーションは、こういった企業の個別対応を効率的に行おうとするものです。BTOは工場に閉じた概念ではなく、サプライチェーン全体での最適化を要するため、注文を受けてから配送するまでの全工程において顧客の要望を受取り、短い時間で届けるまでのコストを低減させています。
BTOのように情報技術を駆使して製造業を高度化する取り組みは世界的な潮流です。アメリカでは「インダストリアル・インターネット」と称し、GEやIBMなどが中心になり新たなビジネスモデル創出を狙っています。ドイツでは「インダストリー4.0」、日本では「第四次産業革命」と呼ばれ、それらを実現するのがロボット・人工知能・IOTといった高度な情報技術です。人間による制御を最小限にし、ロボットなどが自律的に製造工程を調整するため、マスカスタマイゼーションが実現できます。顧客一人ひとりの要望を叶えるため顧客満足度の工場を目指すとともに、リードタイムを大幅に短縮するため、在庫の圧縮や配送コストの低減にも効果があります。
第四次産業革命は今まさに始まろうとしている段階であり、先進的な企業のように、この概念を実装するには大きな企業変革が求められています。生産ラインを完全にロボット化するには、技術的な発展はもちろん、先進技術を扱えるだけの高度技能人材の確保といった課題もあります。
さらに、企業間の連携が増えるマスカスタマイゼーションでは、技術の標準化・モジュール化も求められ、差別化と低コスト化の両立という理想を実現するには相応の投資と経営努力が必要になります。

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