経営戦略

多角化戦略

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多角化戦略とは、既存事業に新たな事業を追加することによって、企業製品市場の範囲を拡大することです。アンゾフが提唱した、製品市場戦略の一類型で、新しい市場に新しい製品を投入して成長を図る経営戦略です。
企業の持つ経営資源を新たな製品・市場に展開したり、既存の経営資源の拡充・発展を行うことで実現されます。

企業の成長に向けた重要な戦略オプションのひとつに位置付けられており、既存事業の収益性低下への懸念を契機として、あるいはリスクの分散や未利用資源の有効活用を狙って進められることが多い経営戦略です。

 

 

アンゾフの成長マトリクス

アンゾフの成長マトリクスとは、企業が事業拡大を図る際、成長戦略を分析・検討するために用いられるフレームワークです。
経営学者のイゴール・アンゾフが著書『企業戦略論』で提唱した理論で、「成長ベクトル」や「事業拡大マトリクス」とも呼ばれます。
アンゾフの事業拡大(成長)マトリクスでは、縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれ「既存」、「新規」の2つに区分します。こうしてできた4象限で企業の成長戦略を見た時、企業の成長には基本的に4つの考え方があると提唱しています。

 

市場浸透戦略

市場浸透戦略とは、既存の市場(顧客)に既存の製品を販売する成長戦略です。
顧客一人あたりの購買数・購入単価を増やしたり、購入頻度・リピート率を高めたりすることで、これまで戦ってきた市場でさらなるシェア拡大を図ります。既存の製品を投入し、既存市場で成長を目指す場合、企業は消費者とのコミュニケーション強化を図り、認知拡大や興味の誘引を行うなど、積極的な販売促進活動から市場シェアの拡大を目指します。だだし、市場が成熟し飽和状態にある場合や、市場シェア率が既に高い場合などには、将来性のない施策となる可能性が高く、成長が困難であると言えます。

 

新製品開発戦略

新製品開発戦略は、既存の市場(顧客)に向けて新しい製品を開発・販売し、既存の市場ニーズをより深く満たしていく成長戦略です。既存製品の関連製品やバージョンアップ製品の展開などが、新製品開発戦略の中心です。
新規製品を投入し、既存市場で成長を目指す場合、企業は市場への積極的なプロモーション活動を図り、既存製品よりも新製品の方が魅力的であることをいかにして消費者に伝えることができるかが肝要です。

 

新市場開拓戦略

新市場開拓戦略は、既存の製品を新しい市場(顧客)に向けて販売していく成長戦略です。
既存の製品を投入し、新規市場で成長を目指す場合、企業は自社製品のポジショニングセグメンテーションの見直しを行い、コアターゲットのペルソナを設定するなど、マーケティング戦略の再定義が必要となります。また、ブランドコンセプトやブランドメッセージの再構築を行い、従来にない、新たなコミュニケーション戦略で市場拡大を目指します。

 

多角化戦略

多角化戦略とは、新しい市場(顧客)に向けて新しい製品を開発・販売していく成長戦略です。
新規の市場に参入するために入念なマーケティングが必要となるばかりでなく新製品の開発も必要であり、したがって戦略の綿密な検討、および技術開発力や営業力、資金力などを含む総合力が決め手となります。
アンゾフの成長マトリクスの4つの戦略のなかでは、もっとも難しくリスクの高い戦略とされています。

 

 

事業を多角化する理由

企業の多角化の目的は、組織成員の貢献意欲など成長がもたらすメリット、未使用資源の活用による範囲の経済の実現、経営資源の複数事業への分散によるリスクの分散などがあります。
多角化においては事業の発展性・競争力があるか、波及効果を生み出せるかという点に留意して戦略の策定を行う必要があります。

 

新しい事業分野への進出

近年、日本企業を取り巻く環境は、激しく移り変わり続けています。テクノロジーの発展により、新たな事業分野が頻繁に生み出されている状況です。
上記のようなテクノロジーの発展により生まれた新しい事業分野に魅力を感じて、多角化に乗り出す企業は少なくありません。これは、比較的ポジティブな理由による事業多角化です。

 

主力事業の停滞

従来とは異なり、現在における日本経済の成長率は衰退しつつあります。市場の衰退にプロダクトライフサイクルの短縮化も相まって、ひとつの本業での生き残りは非常に難しい状況です。
多くの中小企業では、本業の収益力悪化によって会社経営の続行が困難となっています。主力事業で十分な利益を生み出せずに、やむを得ず多角化を図るといったケース珍しくありません。ネガティブな理由による事業多角化ですが、現状を打破するうえで非常に合理的な戦略です。

 

余裕資源の活用

長年にわたり経営を続けていると、会社内に余裕資源(使っていない経営資源)が蓄積されます。特に日本企業は、こうした内部留保を多く溜め込む傾向があるのです。そのため、内部留保の余裕資産を活用手段としつつ、事業の多角化を推進するケースも多く見受けられます。
 

多角化の分類

多角化は一般的に、「関連型多角化」と、「非関連型多角化」に分類されます。

関連型多角化

「関連型多角化」とは、企業を構成するSBUの経営資源(開発技術、製品、販売チャネル、生産技術等)を共有することで、新たな事業分野に進出することです。

非関連型多角化

「非関連型多角化」とは、企業が持つ経営資源が新市場において役に立たない場合に、M&A等の企業買収によって新たな事業を獲得することです。

 

 

4種類の多角化戦略

多角化戦略は、生産技術および市場の観点から大きく以下の4つに分類することができます。

水平型多角化戦略

水平型多角化戦略とは、既存の市場と同様のの市場を対象として、新しい製品やサービス領域に進出する多角化戦略です。水平型多角化戦略は、既存の生産技術や流通経路を利用できることから後に詳しく見る「シナジー効果」の獲得が期待できます。

 

垂直型多角化戦略

垂直型多角化戦略とは、現在の事業の上流・下流の分野を網羅する多角化戦略です。下流への多角化を「前方的多角化」、上流への多角化を「後方的多角化」といい、すでに蓄積された取引関係、販売スタッフなどの経験を生かせることがメリットとなります。

集中型多角化戦略

集中型多角化戦略とは、既存製品(サービス)と新製品(サービス)の間で、技術とマーケティングのどちらかもしくは両方へ関連性を持たせるように行う多角化となります。例をあげれば、テレビからカーナビへの進出、デジタルカメラに使用しているレンズを医療機器に転用する、あるいは産業用アルコールのメーカーが焼酎を製造するなどの例が挙げられます。集中型多角化戦略のメリットには、企業内に蓄積された技術的な資源や能力を活用できることが挙げられます。

 

コングロマリット型多角化(集約型多角化)

コングロマリット型多角化(集約型多角化)とは、従来の事業領域とは全く異なる分野で、新しい製品やサービスを開発し、新市場への進出を図る多角化戦略です。まったく新しい分野へ事業を展開することになるために、ハイリスク・ハイリターンが特徴的です。

 

 

多角化戦略のメリット

多角化していく先の新分野で成功できる根拠が存在している場合にのみ、多角化は成功します。
多角化戦略の新事業と既存事業との間は、なんらかの意味での組み合わせが良いとされています。

範囲の経済

これは、企業が複数の事業を同時に営むことにより、それぞれの事業を独立に行っているときよりもコストが割安になるという現象です。
つまり、コスト的に割安のため、事業範囲を広げると割安になり、多角化が成功するという構図になります。
例えば、半導体事業とコンピューター事業をそれぞれ独立して行っている2つの企業のAとBがある場合と、同じような規模と事業内容で2つの事業を一つの企業で行っている企業Cがある場合、企業Aと企業Bの費用の合計よりも企業Cの2つの事業の費用の合計の方が低い場合、この二つの事業の間には「範囲の経済」が存在しています。このとき、企業Cは半導体事業では企業Aよちもコスト面で有利となり、コンピューター事業では企業Bよりもコスト優位となります。
 

リスクの分散

すべての資源を単一の事業に集中して投入している時には、その事業の産業環境が変化していくリスクが企業のリスクそのものになります。その状態では企業の成長に問題がでるため、多角化してリスクを分散できることがあります。
既存事業の最大のリスクは、その事業での市場ライフサイクルによる産業そのものが成熟から衰退へ向かうというリスクです。
ある事業で自社のメインとなる技術が陳腐化するような技術開発に競争企業が成功してしまうなどの不測の事態が発生した場合、企業は大きな危機に直面することになり、それも既存事業だけに集中していることのリスクです。
しかし、複数の事業をもっているときには、その中の一つの事業で危機的な事態が発生したとしても、その影響は和らげられます。この効果を実現するためには、環境からの影響が互いに無関係かあるいは逆の影響を受けるような事業同士を組み合わせるとよいとされています。

 

 

成長の経済

成長の経済とは、成長することそのものがもたらす経済的なメリットで、そのメリットが新事業での成長を促す目的の多角化を意味します。成長の経済は、規模の経済と間違われやすいですが、規模の経済は、成長の結果で企業が大きくなった後に生まれる「大きいという状態そのもの」がもたらしてくれるメリットで、大量生産が典型的な規模の経済です。しかし成長の経済は、成長するプロセスそのものが経済的なメリットを企業にもたらすことです。つまり、企業がある程度の率で成長したときにもっとも効率的となるため、その成長のために新事業を始めようとします。成長の経済を実現し続けていくためには、企業はある程度の率で成長を持続させなければなりません、必要な成長率を超えて既存事業の市場が拡大している時にはその市場の成長の波に乗ることによって企業は成長の経済を実現できます。あるいは市場の成長率が鈍化しても、その中でより大きなシェアを獲得できれば成長の経済を維持できますが、そこには限界があるため、企業は多角化による成長の維持が好ましいということになります。
企業成長が企業内部の人びとにインセンティブを与え、人々の企業に対する貢献意欲をひきだすという効果を持ちます。
 

シナジー効果

企業の多角化は、シナジー効果を獲得できることもメリットであり、シナジー効果とは「相乗効果」とも呼ばれ経営資源の部分的なものの総和より大きな結合利益を得ることができることを指します。「2+2=5 になるようなプラスの効果」といわれることもあり、シナジー効果についてアンゾフは以下の4種類をあげています。
1.販売シナジー
流通経路や販売組織、広告、商標、および倉庫などが共通することにより得られる効果です。
2.操業シナジー
「施設と人員が高度に活用される」「間接費が分散される」「学習曲線が共通する」「仕入れを一括大量で行う」などによる効果です。
3.投資シナジー
原材料の共同在庫、機械設備やプラントの共同使用、研究開発成果のほかの製品への転用、投資基盤や材料調達、投資機会などの共通化などによって得られる効果です。
4.マネジメントシナジー
経営陣の能力や経験の移転、事業運営や現場管理のノウハウなどによって得られる効果です。

企業を多角化することによってシナジー効果が生まれれば資産や人材、技術、知識、経験などの経営資源を最大限に活用し余剰を最小限に抑えることが可能となります。

 

市場のライフサイクルに適応できる

多角化戦略を実行することにより市場またはプロダクトライフサイクルに適応することが可能となります。プロダクトライフサイクルとは、製品が「導入期→成長期→競争期→成熟期(飽和期)→衰退期」のサイクルで寿命をもつことです。
導入期は新しい製品が市場に投入され、需要が小さいですが需要を創造するために大きな投資が必要となります。成長委では需要の急速な成長がみられる時期で競争者の算入も増加し価格も低下します。競争期では需要はさらに拡大しますが、競争者間で厳しいシェア争いが行われます。製品の差別化や市場の細分化も明澄化し、後半から競争による一部の競争者が淘汰されます。成熟期では需要が停滞しはじめ、価格はさらに低下し、競争者間の競争も激化します。衰退期では需要は縮小し、多くの企業の撤退が始まります。
一つの製品が衰退期に入ると企業は撤退していきますが、事業が多角化されていて、ほかの製品が成長期に入るなどしていれば企業全体としての売上高は安定的に維持できます。

 

 

多角化戦略のデメリット

コストが掛かる

多角化戦略では、資本と労働力の分散が避けられず、単一的経営にはないコスト上昇のリスクを抱えなくてはなりません。
企業を多角化することは、長期的にシナジー効果や範囲の経済性により費用の低減および利益の増大を目指すことが可能となりますが、しかし短期的には、多角化とは新規事業を立ち上げることであるからマーケティングや製品開発、販売活動のために多大な投資が必要となります。したがって企業を多角化するためには、そのための投資が可能であることが前提となってくるでしょう。

 

経営が非効率になりやすい

企業を多角化することにより範囲の経済によりコストが抑えられる点もありますが、その一方で経営が非効率になりやすい側面も発生します。リソースを一つの事業に集めることができないため、非効率的な経営となる場合があるのです。抱える事業の種類が増えれば増えるほど、スペシャリストが必要になりますし、別個に資金も必要になりますまた事業間での経営資源も範囲の経済性によって共有できるものもあるが、どうしても重複してしまうものも多くなります。

 

 

多角化戦略の企業例(代表例)

エプソン

インクジェットプリンターなどを提供しているエプソンは、もともと時計を製造しているメーカーでした。
時計を精算するために蓄積した金属精密微細加工技術が、インクジェットのヘッドの生産に利用され、他社製品よりも圧倒的に画質の優れたプリンターの開発に成功し、現在のプリンター業界では覇権を握っています。
金属精密微細加工着ずつという情報的経営資源についてのダイナミックシナジーが、エプソンをプリンター業界の大手に成長させた大きな要因となりました。
これは

味の素

かつての味の素は、協和発酵によるグルタミン酸ソーダの新しい生産技術の開発により、主力の事業であったグルタミン酸ソーダ事業での技術的優位を根底から覆されないリスクに直面していました。そこで味の素は多角化戦略を行い、ほとんど経営資源のない未知の分野である加工食品事業などへの多角化を開始しています。

 

 

多角化戦略の目指す未来

多角化戦略を展開する上でのメリットの中でもっとも重要なものは範囲の経済です。範囲の経済は、典型的な資源利用という組み合わせですが、この経済効果には相補効果(コンプリメント効果)と相乗効果(シナジー効果)があります。
大きな成功を収めている多角化企業の成長のプロセスを追ってみるとダイナミックシナジーがその中核にあることが多く、多角化戦略が目指すべきはこのダイナミックシナジーと言われています。

 

企業ドメイン

企業ドメインを決定することで企業は多角化の広がりの程度を決めています。どのくらいの範囲で事業分野を拡大していくのか。コングロマリットのケースでは、その広さはほぼ経済全体、あるいは製造業全体といったような広さにも等しくなります。

 

 

まとめ

これまでの研究においては、多角化戦略の有効性をめぐってこうした多角化のタイプと経営成果との関係について様々な考察がされてきました。
そこでは全体としての①主力事業だけに限定して事業展開している企業や「非関連型多角化」を推進している企業に比べて、「関連型多角化」を行っている企業の収益性が相対的に高いことや、集中型の多角化を行っている企業は成長性・収益性ともに相対的に高いという結論が明らかになりました。
このように関連・集中型多角化の経営成果が高いのは、事業間でのシナジー効果が強く働くためだと言われています。シナジー効果は主として経営資源を複数の事業で共通利用することから生まれます。
そのため、企業にとっては基盤技術を応用できる、既存の生産設備・流通チャネルなどを共通利用できる、あるいは既存事業で築いたブランドや評判を波及させることができるような事業分野へと多角化を展開していくことが重要となります。
 

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