ビジネスモデル

BOPビジネス

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BOPとは、「Base of the Pyramid」の略語で、年間所得3,000ドル未満で生活している新興国の低所得者層をターゲットとしてビジネスを展開する考え方です。このBOP層に所属する人口は世界人口の72%(約40億人)とされており、市場規模は5兆ドル程度であるとされています。これは日本の実質GDPに並ぶといわれています。
新興国におけるBOP層は人口のボリュームが大きく、世界経済における新たな市場として注目されています。
BOPビジネスの主な特徴には「社会問題(貧困や衛生問題)の解決とビジネスの両立が必要」、「企業収益だけでなく低所得者層にも収入をもたらす仕組みが必要」などの特徴があります。

 

 

BOPビジネスの提唱者

BOPビジネスの概念を最初に提唱したのはアメリカ・ミシガン大学ビジネススクールに在籍していたC.K.プラハラード(C.K.Prahalad)教授です。
C.K.プラハラード教授は、「貧困層は援助の対象ではなく消費者」と唱えました。さらに、BOPビジネスに関して「貧困層とパートナーを組み、イノベージョンを起こし、持続可能なWin-Winのシナリオを達成する」ことが必要であると提起しています。つまりBOPビジネスとは、単に商品サービスを提供して利益を得るだけではなく、貧困層の所得を増やす仕組みを作り出して継続的な消費を生み、持続性のある市場を目指すものであるということです。

 

 

BOP層は将来的な中間所得層である「ネクストボリュームゾーン」となる

BOP層の詳しい定義は色々ありますが、最も一般的とされているのは2007年に国際金融公社(IFC)と世界資源研究所(WRI)が出版した報告書である「The Next 4 Billion」の中で定義されている、「年間所得が3000ドル未満で生活している人々の層」という解釈です。この報告書のタイトルにある「4 billion」とは、世界のBOP層の人口とされる約40億人を指しており、これは世界人口の約72%に該当します。この約40億人と推定されるBOP層は、将来的にはその多くが中間所得層に上昇することが期待されることから、BOP層は新たな有望市場「ネクスト・ボリュームゾーン」として、世界的に関心を集めています。
BOPビジネスを活性化させることで世界経済全体のさらなる成長が期待されるため、BOP層をターゲットとした製品やサービスを多く作り出すことが、大きな市場機会を生み出すことになります。
 

BOPビジネスの成功条件

貧困層の所得増加の仕組み作り

BOPビジネスを成功させるには、単に商品やサービスを提供して利益を得るだけでなく、貧困層の所得を増やす仕組みを構築し、継続的な消費を創出できるかが鍵となります。つまり、ビジネスと同時にその地域全体の所得を増加させるという、本来企業が行わないような経済活動を行うことも必須となるわけです。
 

現地の生活様式、習慣、文化に根ざしたマーケティング

新興国の低所得者層の生活は、宗教的戒律や男尊女卑といった独特の習慣や文化の制約を受けています。BOPビジネスを行う際は、自社の製品がそうした制約にフィットするのか、などの詳細な調査が必要となります。また、消費や生活実態がまだ明らかになっていない層へアプローチする際には現地のNPONGOと連携することも必要になります。
 

衛生や文化の啓蒙活動もともに行う

BOP層が生活する地域では、その地域の衛生状態が良くない場合が多々あります。例えば、食器を洗剤で洗う習慣がない地域では「洗剤の利用で伝染病感染がどのくらい減るか」といった、啓蒙・教育活動を企業側が行うことが必要です。また、製品購入が将来の医療費や生活リスク削減になることを理解・浸透させるといった啓蒙活動を行うことも重要です。
 

BOPビジネスのメリット

企業イメージの向上

BOPビジネスを行う企業は、そのままその地域の社会的価値を発展させる企業として認知されます。そうした経緯から、現地の市場だけでなく、世界的な市場においても企業イメージの向上につなげることができ、ブランドディングも行うことができます。

イノベーションの促進

BOPビジネスを行う企業にとっては、BOP市場での製品やサービスの開発・販売方法は、これまで進出しているどこの市場ともかなり異なるものになると想定されます。
そのため、BOP市場に進出する過程において、世界的な市場も通用するような画期的な製品・サービス、またはマーケティング手法などが生まれる可能性があります。さらに、新たなビジネスモデルの開発にも役立つアイデアを得ることができる可能性もあります。

先駆者利益の獲得

BOP市場はまだまだ企業間の競争率が低い未開拓の市場であり、つまり「ブルーオーシャン」であると言えます。このブルーオーシャンにいち早く進出し、BOP市場で確固たる地位を築くことができれば、未来の成長市場のパイオニアになれる地位を獲得できるということになります。

このように先進国の潤沢なマネーをターゲットとするような利益を追求する企業にとっても、低所得者層をターゲットとするBOPビジネスには大きなメリットがあることを説明しました。
しかし、もしも自社の海外進出としてBOPビジネスへの参入を考慮している場合は、次に解説する「BOPビジネスの企業例」で紹介する企業のような、長期的な視野と戦略でBOPビジネスを行っていく必要があります。

 

 

BOPビジネスの企業例

グラミン銀行

BOPビジネスで最もよく認知されている例は、ノーベル平和賞を受賞した経済学者ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)が1983年に創設したバングラデシュのグラミン銀行です。グラミン銀行は土地や預金などの担保を持たない貧困層でも金融機関から融資を受けられるシステムを構築しました。
グラミン銀行から融資を受ける際には、借り手は5人のグループを組み、1人ずつ順番に融資を受けます。融資を受けている1人の返済が完了すると次の人が融資を受けることができ、万が一に返済ができなくてもグループ内のメンバーは基本的に連帯保証責任を負いません。グループは同一地域に暮らす住民同士で組まれ、その多くがカースト下位にいる女性です。コミュニティの中で人間関係の比重が高いという習慣を使って返済責任の義務感を与える仕組みで、貸倒率は2%以下と言われています。貧困層にごく小口の融資を行う仕組みは「マイクロ・ファイナンス」と名付けられ、それまで労働の機会すらなかった多くのバングラデシュ女性が起業によって収入を得られる機会を作りました。結果的に、地域での児童就学率も高まりました。
 

フマキラー

殺虫剤大手企業のフマキラーは、年間を通して蚊が多いインドネシアに1990年台に進出し、現地の蚊の生態を研究してローカライズした製品を発売しました。
市場創造の鍵となったのは、営業スタッフと現地採用のセールスレディによるマーケティング活動です。インドネシア特有の「ワルン」と呼ばれる個人商店に、営業スタッフが訪問して製品の説明と取扱いの交渉を行う一方で、セールスレディが周辺の個人宅を訪問して試供品を進めます。「消費者が試供品に満足するとワルンで買い物をする」という動線づくりを地道に行い、持続的な市場を作り出しました。貧困層に所属する女性に仕事の機会を与え、自立支援にも貢献しています。
 

ユニリーバ

イギリスに本拠地を置く世界的な消費財メーカーであるユニリーバによる、インドの農村地域での石鹸販売も有名な例です。ユニリーバは、一日の所得が2ドル以下とされるBOP層をターゲットにして石鹸を販売していています。従来、インドの農村部では石鹸で手を洗う習慣がないことによる衛生環境の悪化から、下痢などによる死者が多い実態がありました。そこでユニリーバは現地の女性住民を中心に衛生教育セミナーを開催するともに、現地の女性を販売員として雇う制度を採用しました。
フマキラーと同じく、現地の女性を販売代理人として採用する方法ですが、販売代理人となる女性たちは、ほとんどが自らもユニリーバ製品を利用する顧客となっています。
また、販売する商品にも工夫があり、BOP市場において販売される商品は、通常の商品よりも量の少ない小分けまたは使い切りタイプの商品が販売されています。小分けパックや使い切りサイズの商品であれば単価も安くなるため、消費者の購入に対するハードルを下げることができるためです。
ユニリーバはインドでのBOPビジネスにおいて大きな利益を得ることによって、ビジネスと同時に社会貢献の両立・現地社会の発展を実現しました。
 

BOPビジネスの失敗例

タタ・モーターズ

インドのタタ・モーターズが開発した格安自動車「ナノ」は、10万ルピー(日本円で約20万円)という低価格で低所得者層に向けて販売されましたが、インドの9割以上の世帯はローンを組んでも「ナノ」を購入できるほどの収入がなかったため、あまり売れませんでした。BOPビジネスを実施する際はターゲットとなる低所得者層の生活水準やニーズについて詳細な実態把握を行うことが重要であることが分かります。
 

BOPビジネスの課題と今後

BOPビジネスには失敗例も多く存在しており、その原因には、「価格の不適切性」や「インフラの対応不足」、「信頼性の不足」などがあります。どの失敗の原因も現地の特性やニーズを把握できていなかったことが共通の要因だとされています。つまり、BOPビジネスにおける最大の課題は「現地への密着性」であり、どんなビジネスでもターゲットを適切に捉えることが鍵となります。BOPビジネスを始める場合、現地住民の特性やニーズをしっかりと把握することが必要であり、現地に精通しており、人脈を持っているNGOやNPO、現地企業とのパートナーシップの構築することが重要です。
前述した「The Next 4 Billion」の中でも言及されているように、BOP層は「ネクストボリュームゾーン」、つまり「将来的な中間所得層」とされています。多国籍企業を含む民間企業やNGOやNPOなどの市民団体、政府などが連携し、BOPビジネスを活性化させていくことで、世界規模の経済成長が実現し、BOP層が中間所得層として次なる経済の中心を担っていくことが期待されているのです。
BOP層が中間所得層に引き上げられる段階を迎えるころには、BOP層に属していた人々とBOPビジネスを展開する企業のあいだには強固な信頼関係が築かれていると想定されるため、これが参入障壁となり、ある程度の競争優位性を維持できます。
成長率が高く、さらに市場開拓の余地が多く存在していることから、BOPビジネスは将来性の大きいビジネスだと言えます。

 

 

BOPビジネスの先にあるSDGs達成

SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称です。2015年9月に国連総会にて採択され、2030年までに世界が取り組むべき17の目標と169のターゲットが設定されました。
SDGsが目標としているのは、貧困や暴力・飢餓の撲滅、そして環境を破壊しない形での持続可能な経済発展などであり、先進国と発展途上国の区別なく、目標達成のため、ともに努力を継続していくことが求められています。
低所得者層をターゲットにするBOPビジネスはSDGs達成のための有効な手段のひとつであり、BOP層に対して、手の届く範囲で質の高い商品やサービスが提供されるようになった場合、健康や福祉、教育に関する問題を解決できる可能性も生まれます。また、さらに安全で快適な環境整備にも繋がるはずです。

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